相談

「失礼致します。こちら、お冷やになります。ご注文お決まりになりましたら、お声がけ下さい。」


「あ、注文決まってるよ。」


「お伺い致します。」


注文を済ませて戻ろうとすると、二人に捕まった。


「バイト中だから早く戻らないといけないんだけど。」


とは言ったが、店が混んでないので多少の余裕はある。


「意外と真面目に働いてんだね。」


「俺は、いつでもどこでも、真面目な優等生だけど?」


「翔太くんに限ってそれはないよ。」


凪砂さんから、真面目に働いてるないと思われてたのは、少し意外だ。海結にも、真面目で優等生のところは、バッサリ切って捨てられた。ちょっとしたボケのつもりだったんだけどな。


「もう、何も無いか?無かったら戻るけど。」


「あ、最後に一つだけ...その、制服、似合ってるよ。」


「ありがとう。海結も今日の服、可愛いよ。」


制服が似合ってるいると言われて、心臓がドキッと跳ねた。そのままなるべく平静を装いつつ、仕事に戻る。


「顔、赤いけど大丈夫なのか?」


「熱とかは無いので、大丈夫です。」


いつものように、話しかけて来た先輩が俺たちを、どこか、羨ましそうに、恨めしそうに眺めていたことを、後で店長から聞いた。


そのままピークに突入して、慌ただしく働いていたら、いつの間にか、海結と凪砂さんは帰っていた。

いつもより、少し長めのピークを越えて、バイトを上がったのは、二十一時頃。帰り支度を済ませ、先輩と店を出る。


「そうだ。海結と水族館に行った話を聞かせてくれないか?」


「別に減るものでもないので、いいですよ。」


いつもの公園に向かいながら、昨日の詳細を話す。話さなかったのは、手を繋いだこと、イルカショーで海結に目を奪われたこと、プレゼントをしたことくらいだ。


「それって、デートではないのか?」


「デートじゃないですよ。」


否定しても、先輩はあまり納得してない。


「海結は、デートだと思ってたのではないか?」


「それこそもっと無いですよ。紗季さん...今の母親にデートか聞かれたとき、真っ先に違うって言ってましたし。」


そもそも、デートは付き合ってる男女、もしくは両思いの男女がするものだから、俺たちの場合、デートには当てはまらないはずだ。


「まあ、お前がそれでいいなら構わない。」


先輩にしては珍しく、含みのある言い方だと感じた。何を含んでいるかは分からない。

少し、気まずい雰囲気になりかけたので、水族館の話の延長として、話題を持ち掛ける。


「先輩は、この生き物可愛いと思いますか?」


ダイオウグソクムシの画像を先輩に見せる。


「可愛くは無いな。どちらかと言うと、気味が悪い。」


やはり、可愛くないと思うのが、一般的な意見だ。


「因みに、海結と母さんは、こいつが可愛く見えてます。」


「それは、何とも独特な感性だ。ただ、価値観は人それぞれ、無闇に否定することはできないがな。」


その通りだ。水族館のグッズ売り場に、ダイオウグソクムシのぬいぐるみがあったのを見かけた。つまり、一定数人気があるということになる。


「それで、相談って何ですか?」


公園に着いたところで、本題に入る。


「まあ、そう焦るな。ベンチに座ってゆっくり休ん話そう。」


近くにあるベンチに腰掛けゆっくりと先輩が話し出す。


「この前の金曜日に、同じクラスの男子に話しかけられたんだ。その内容は、なんで覡は、男みたいな仕草で、オトコみたいな喋り方なんだ。ってことだった。」


確かに、、先輩の女子らしい、女性らしいところはあまり見たことがない。


「昔からこんな感じだったし、特に考えたことも無かったんだが、女らしくしてたらもっとモテたんじゃね?とも言われてな。」


先輩は今のままでも、充分モテると思うけど、口を挟まずに聞く。


「もし、その男子が言うような、女らしい女子をしていたら、好きな人にも振り向いて貰えたかもしれないと思ってな。」


「先輩、好きな人いたんですか!?」


あまりにも衝撃的だ。先輩の好きな人か。ハイスペックなイケメンより、気の抜けた年上を、好きになる勝手なイメージがある。


「すまない。今のは忘れてくれ。まぁ、そんなことがあって、スマホで乙女チックな調べ物をしてたってことだ。」


忘れろと言われても、忘れられそうな気がしない。


「その男子は先輩のことが好きなんじゃないですか?」


「それはない。」


「どうして、言い切れるんですか?」


「その男子は、私が女らしかったらモテてたって言ったんだぞ。男勝りな私を好きな訳がないと言い切れる。」


先輩はそう考えたらしいが、俺、一男子としては、違う意見だ。


「俺は、ちょっと違うんですけど、先輩の魅力に気づいたのは俺だけだぜ!的なアピールな気がします。」


「と言うと?」


「こう言うと先輩は嫌がるかも知れないですけど、先輩は、凛々しくてかっこいいと、思うんです。」


こんどは先輩が、うんうんと首を縦にふりながら聞いてくれてる。


「先輩も言ってましたけど、男勝りでかっこいい。まさにそれが、先輩の魅力です。可愛い女子が好きな男子は多いでしょうけど、女子のかっこいい一面にキュンとくる人もいるのでは?という事です。」


人を好きになる、恋をした事が無いので完全に憶測だが、的を射てる気がしてる。


「真相はその人の中にしかありませんので、勝手なことは言えませんけどね。」


「なるほど。では、近いうちに告白されるかも知れない。そういう事だな。」


首を大きく縦に振り肯定する。


「男勝りでかっこいいは、私の魅力か...良いことを聞けた。それで、上水流は可愛いとかっこいい、どっちが好みだ?」


「俺は、恋をしたことが無いので分かりませんが、好きになった方が好みなんじゃないですか?」


なにか特別なことを言ったつもりは無いけど、先輩の顔は晴れやかだ。


「相談に乗ってもらって悪いな。」


「いえいえ、先輩にはお世話になりっぱなしですから、このくらいお易い御用です。」


先輩の心が晴れたっぽいので、上手く相談に乗ることができたみたいだ。俺の意見が正しかったかは分からないけど。



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