バイト

海結と遊んだ翌日、俺はバイトをしていた。昨日紗季さんと親父に渡したお土産は喜んでくれたと思うし、良い話もたくさんできた。

ただ、一日中手を繋いでいた事を自覚し悶絶したのは言うまでもない。


「上水流くん、ちょっと早いけど、休憩入っちゃって。」


「はい。失礼します。」


いつもより早めに客が少なくなったので、店長の言う通り休憩に入る。


「あ、先輩。おはようございます。」


「上水流か。おはよう。」


事務所に居た先輩に挨拶をすると、スマホから顔を上げた。


「珍しいですね。先輩がスマホなんて。」


触っているところをあまり見たことがない。それこそ調べ物をする時とか連絡を返す時くらいしか見ない。


「ああ、暇つぶしにな。それより、昨日はなにしてたんだ?」


先輩が暇つぶしにスマホを触るのは違和感がある。いつもは、本を読んでる印象が強い。


「昨日は、海結と水族館に遊びに行ってました。」


「二人でか?」


「はい。二人ですけど、それがなにか?」


「い、いやなんでもない。」


やっぱり今日の先輩はなにか変だ。


「先輩、なにかあったんですか?」


「なにかってなんだ?」


「元気がないというか、ちょっと変というか...」


「バレてしまったか。それなら今度は私の相談に乗ってくれ。私は今からバイトに戻るから、いつもの場所でな。」


そう言って、先輩がバイトに戻る。この相談を受けて、先輩への恩を少しでも返せたらいいな。


休憩を開始してから、一時間後、バイトに戻る。夜のピーク時までまだ時間があるので、ピーク時に備える。

すると、入店を知らせる鐘がなった。


「俺が行きます。」


先輩に告げて入口に向かう。


「いらっしゃい...ま...せ。」


「来ちゃった。」


そこに居たのは、海結と凪砂さんだった。


「何しに来た。」


「何って、ご飯食べに来たに決まってんじゃん。」


何当たり前のことを聞いてるんだと、凪砂さんが言う。このまま話しすぎても店長に怒られるので、さっさと案内をする。


「こちらのお席でよろしいですか?」


海結たちが、はーいと俺の気も知らずに軽い返事をする。


「あれは、海結と友達か?」


水を準備しに戻ると先輩から話しかけられた。


「ついでに、俺の友達でもあります。」


「友達が出来たのか。中学は一人もいなかったというのに。」


痛いところをついてくる。昔の傷が開きそうになるも堪える。


「まあ、二人だけですけどね。それも、あいつのおかげです。」


「それでも、立派だよ。早く水を持って行け。」


先輩に褒められるのは、やっぱり嬉しい。いつだって、正面から向き合ってくれて、言葉をかけてくれる先輩を尊敬している。

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