デート?⑤

イルカショーが終わって、そのまま触れ合いコーナーに来た。小さいエイや小さいサメをの背びれあたりを触ることができるそうだ。


「もしかして、怖いの?」


海結が水槽の前で手を出したり引っ込めたりしている。


「だって、サメだよ。噛まれるかもしれないし...」


「注意書きもあるし、それ守ってれば大丈夫ですだって。」


水族館や動物園の触れ合いコーナー的なのは、全部安全には十分配慮されているだろう。


「じゃあ、行くよ。見ててね。」


意を決して水槽の中のサメに手を伸ばした。


「なんかザラザラしてて気持ちいい!」


試しに、俺も触ってみる。気持ちいいのかは、分からないが確かにザラザラしている。


「翔太くんの髪の毛に似てるね。」


「何?触ったことあるの?」


唐突にとんでもないことを言い出した。サメの鱗の感触と、俺の髪の毛の感触が似てるってなんだよ。


「あ、いや、翔太くんが昼寝してる時にちょっとだけ...」


「何だそれ。恥ずかしいんだけど。」


「でも、お母さんも一緒だったよ。」


「関係ねえよ!」


これから昼寝をする時は、自分の部屋でしよう。寝ている間に、頭を撫でられるなんて恥ずかしすぎる。


「まあまあ、落ち着いてよ。ほら、あそこにドクターフィッシュがいるよ。」


「話を逸らすなよ。つかドクターフィッシュってなに?」


「知らないの!?取り敢えず行こっ!」


常識知らずみたいな反応をされたのが癪に障るが、興味の無いものを覚えるってのは難しいから仕方がないと自分を納得させる。


「手、入れてみて。」


ドクターフィッシュの水槽の前に着くなり、手を突っ込めと言われたので、大人しく従う。両手を入れると小魚が大量に寄ってきて手に引っ付いた。


「気持ち悪っ!」


勢いよく手を引き抜く。


「あ〜!バシャバシャしたらダメなんだよ!」


「知らねえよ!それより、何だよあれ!」


「簡単に言うと、汚れを食べてくれる魚だよ。」


ちょっと待てよ。汚れを食べるってことは、俺の手ってそんなに汚いのか?


「大丈夫だよ。みんなあんな感じらしいよ。」


「心を読むなよ。紗季さんといい、海結といい超能力でもあるのかよ。」


「だから、翔太くんは顔に出てて分かりやすいって何回も言ってるじゃん。」


それにしても、考えてることが分かるのは異常だろ。でも、碧が顔に出なくなってきたって言われたのにな、なんでだろ。


「俺のポーカーフェイスのことはどうでもいいから、海結もてを入れてみろよ。」


「なんで?恥ずかしいからヤダ。」


「皆同じぐらいって言ってただろ。」


「でも、汚いみたいじゃない?」


「嫌なら別にいいけど。」


よく分からない理論を展開してまで、手を入れたくないのならいいと思う。そもそも、言い争いで勝てるわけが無いのだから、潔く諦めるのが賢い生き方だ。

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