日常
バイト先から十五分ほど歩いてようやく我が家が見えた。疲れた身体で玄関の扉を開けると、そこに海結が待機していた。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも...わ、た、し?」
「・・・」
どことは言わないが、あまり大きくないのでセクシーさが感じられないポーズまでして、バカなこと言う海結の横を通り抜ける。
「なにか言ってよ!恥ずかしかったんだよ!」
よく見ると耳が真っ赤になっている。相当恥ずかしかったのだと分かる。
「恥ずかしいならやらなきゃいいのに。」
小さく零したが聞こえていたらしく、更に顔を赤くしてドタバタと部屋に戻っていった。
「翔太くん、何してるの?早くご飯食べちゃってね。」
「あ、すみません。すぐ行きます。」
紗季さんが用意してくれたご飯を食べて腹を満たしたところで、課題を始める。
「まだ課題終わってないの?」
小馬鹿にしたような声で海結が話しかけて来た。少しいや、大分イラッとした。
「もう、恥ずかしくないのか?」
「は、恥ずかしいくないよ?」
バレバレな嘘を何故か疑問形で返された。
「嘘つくなよ。」
「嘘じゃないもん。」
「いや、嘘つくの下手すぎだし、バレバレだから。」
「じ、じゃあ課題頑張ってね。ばいばい。」
話を誤魔化して逃げた。結局何がしたくて話しかけきたのか、さっぱり分からん。
「構って欲しかったのよ。」
「紗季さん、心読みました?」
「海結の心を読んだのよ。それに、翔太くんも顔に出てて結構分かりやすいわよ。」
ポーカーフェイスは得意だと思ってたのに、新事実を知らされてかなりショックを受ける。
「それで、紗季さん。構って欲しいってどういうことですか?」
「あの子、弟ができるって喜んでたから、翔太くんといっぱいお話がしたいのよ。だから、たまにでいいから構ってあげてね。」
「それくらいなら。」
「ありがとう。」
理由を言われてもやっぱり分からない。親父と紗季さんが再婚して幸せそうにしてて嬉しい。これは分かる。でも、姉ができて嬉しいとは思わない。だから分からない。
それでも構ってあげて欲しいと言われたので、課題をするのを辞めて海結の部屋に向かってノックをする。
「ちょっといいか?」
「どうしたの?」
ドアを開けて顔を覗かせる。
「構って欲しそうにしてたから、構いに来てやったぞ。」
「なにそれ。入っていいよ。」
海結の顔が綻んだ。
「お邪魔します。」
女子の部屋に入るのは初めてで緊張する。物は意外と少なくて、かわいいぬいぐるみ何体か置いてある。
「それで、何の話をするの?」
「いや...あの...せっかくだし、海結のこともっと知っておいた方がいいと思って。」
せっかく家族になったんだ。海結のことをもっと知りたいと思うのは普通の感情のはずだ。
「いいよ。色々おしえてあげる。その代わり、翔太くんのこと教えてね。」
「わかった。それなら大丈夫。」
それから俺たちは色んなことを教えあった。勉強が得意じゃないこと、人と話すのが苦手なことから、好きなことや嫌いなことまで教えた。
逆に海結は、勉強が得意だけど運動が苦手らしい。勉強に至っては学年で一桁順位を取れるくらいだとか。
話し合いは紗季さんに寝るよう注意されるまで続いた。話すだけで分かることも少ないと思うけど、まだ出会ったばかりだ。焦らずにゆっくりと仲良くなろうと心に決めた。
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