先輩①
急いでバイト先に向かって、なんとか時間ギリギリに着いた。息を整えて中に入り辺りを見渡す。まだピーク時じゃないから人もあまりいない。既に働いてる社員さんに挨拶を交わしながら事務所に行く。
「お、ようやく来たか。遅かったな。」
そこには、同じ学校の二つ上の先輩で、家が空手の道場を営んでいるらしく、男勝りな性格をしている覡かんなぎ先輩がいた。
「先輩、おはようございます。急遽、用事ができてちょっと遅くなっちゃいました。」
「上水流に用事?珍しいこともあるものだな。」
「まあ、ちょっと姉に振り回された感じです。」
何故か先輩が口を開いて固まってしまった。反応が返ってきそうに無いので、更衣室に行って今のうちに制服に着替える。
着替えが終わって事務所に戻ると、先輩が詰め寄って来た。
「上水流、君に姉がいたとは聞いてないぞ!この前一人っ子だって言ってたじゃないか!」
俺は口を滑らしたことに気づいた。誰にも言うつもりはなかったのに、まさかこんな簡単に言ってしまうとは思わなかった。
「先輩!もう時間ですよ!」
そう言って勢いで誤魔化す。幸い先輩より俺の方が上がる時間が早い。今日のところは何とかなりそうではあるが、明日はどうなるか分からない。
「ちょっと待っ...」
「上水流入りまーす。」
先輩の静止を無視して仕事を始める。俺はまだ三ヶ月くらいしか働いてない。慣れてないことも多いがそれなりに働けてると思ってる。
ちなみに、普通の飲食店で働いていて、不本意だがホールの仕事をしている。キッチンが良かったが、店長からホールの人手足りてないからお願いという名の命令を受けたからだ。
「すみませーん。」
「はい。少々お待ちください。」
客から声がかかったので注文を取って、キッチンに伝えると、
「明日、詳しく聞かせてもらうからな。」
と、有難くないお言葉を頂いた。
それからは、先輩の圧を受け流しつつ集中して働いた。気づいた時には、五時間たっていて仕事上がりの時間が来た。さっさと着替えて挨拶をして店を出る。
「お先に失礼します。お疲れ様です。」
夜の九時ともなると流石に暗い。星は家の電気で見えないのが少し寂しい気もするが、実際に満天の星空を見たことが無いのでなんとも言えない。
「腹も減ったし、早足で帰るか。」
そう呟いて歩く速度を上げた。
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