お出かけ③

彼らの叫び声で視線を一斉に集めたので、近くにあった喫茶店に入って、自己紹介が始まった。


「あたしは、滝ノ上高校一年の凪砂なぎさ 鈴すずだよ。よろしくね。それと、こっちが彼氏の碧。」


「滝ノ上高校一年。永井ながい 碧あおだ。よろしく。」


「滝ノ上高校一年。上水流 翔太です。よろしく。」


「で、海結ちゃんの弟ってどういうこと?」


めちゃくちゃ気になってたらしく、食い気味に聞いてきた。


「鈴ちゃんおちついて。順を追って説明するから。」


二人に俺たちの親が再婚したことを簡潔に説明した。


「それで今は、親睦を深めてるんだね。」


「そうだよ。翔太くんはあんまり乗り気じゃなかったみたいだけどね。」


そんなことはないと思う。ただ女子と二人で遊ぶのが初めてだから、緊張していたのかもしれない。楽しいの感情があったのは確かで、悪い気はしていない。


「俺も、まあ、それなりに楽しいと思った。」


「そっか。それなら良かった。私も楽しかったよ。」


まただ。普段の笑顔はなんとも思わないのに、ふとしたタイミングで魅力的に映ることが昨日もあった。それで最後にはモヤモヤした感覚だけが残るんだ。


「何だよ翔太。そこはバシッと楽しかったって言わねえとダメだろ。」


「あ...おぅ」


ボーッといていたのと、初対面での名前呼びに思わず吃る。これが陽キャ。コミュ力お化けか。だが不思議と嫌な感覚は無い。思いの外海結のことを信用しているのか?


「そうだ。翔太。お前もオレのことを名前で呼べ。」


何を思いついたのかと思えば、


「なんでだよ。今日初対面だぞ。」


「なんでって、そんなこと聞くなよ。おれがお前と友達になりたいって思ったからだよ。」


恥ずかしげも無く言い放った言葉に、声を出して笑いながら言った。


「なんだよ。そのバカみてえな理由は。」


「バカってなんだよ!俺は真剣なんだよ!」


「はいはい。悪かったと思ってるからそう怒るな。碧。」


すると、今度は碧がさっきの意趣返しでもするかのように笑いだした。


「どこに笑う要素があった?」


「いや、翔太も大概だな〜と思ってよ。」


俺もってことは、何が似たようなニュアンスがあったのだろう。これで高校に入ってからの友達一号は、碧になった訳だが、まさかこんな陽キャ友達になる日が来るとは夢にも思わなかった。


「何が大概なのかは分からないけど、聞きたいことがある。」


「どうした?深刻な顔して。」


「あいつが学年一可愛いって噂されてるのってマジ?」


「マジだぞ。オレは鈴が一番かわいいと思うけどな。」


「そういうのは要らん。惚気は他所でやれ。」


急に惚気けやがった。いきなり彼女が一番かわいいとか言われても、反応しずらいんだよ。


「そういうのってなんだよ。オレ流の愛情表現なんだぞ。」


「なら、尚更俺に向けてないで、その彼女に向けてやるんだな。」


「それはそうだな。」


碧がその彼女の方に足を向けた。

しかし、噂が本当だというのはいやな話だ。でも誰が一番可愛いとかどうやって決まったんだ?一年の女子を全員把握してるわけでも無さそうだが。


「十五時だよ翔太くん。時間大丈夫?」


「マジか。危ねぇ。ありがとう助かった。じゃあ行ってくる。」


「行ってらっしゃい。」


手を振って別れる。碧のバカはこっちを見向きもしない。それに、いつものバイトは結構憂鬱でしんどいけど、今日はなんだか身体が軽い気がする。なるべく早く帰れるように気合を入れてバイト先に向かう。

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