第7章 第3話

 それから間もなくして、アッサムは旅に出た。幼馴染のウバーとダジリンも一緒だ。


 三年前、ウバーは首都での修行を早々に切り上げ、村に戻り、カーネルのもとで剣の手ほどきを受けた。ダジリンは首都に戻って修行を続けたが、転移魔法を習得したのを村に披露しに戻り、首都に帰らずそのまま村で過ごした。


 アッサムが試練をクリアしたのを喜んだ二人は、いつぞやの約束通り、三人で旅に出ることにした。ダジリンが危険を伴う旅を「お出かけ」と表現した時は、その場の全員でずっこけてしまったが、こういうキャラが一人くらいいた方が、旅はうまくいく。


 アッサムがいなくなった後の家は、ディメルがしっかり守っている。男達だけの生活が長く、風呂はカビだらけ、倉庫は蜘蛛の巣だらけという有様で、ため息をついていたが、文句を言いつつも楽しそうに家事をしている。台所に現れる黒いあいつが登場する度に消滅魔法を放とうとするのを、カーネルがなんとか抑えてくれている。


 そのカーネルは、ジェブラの一件で首都の剣士達の憧れの的となり、弟子志願者が毎日のように訪れている。柄じゃないと初めは断っていたが、情けないほどに腑抜けた首都の剣士達に危機感を覚えたのも確かなので、仕方なく村の外に道場を作って受け入れ、指導している。


 カーネルに稽古をつけてもらうために村へ訪れる剣士が増え、彼らが寮代わりに利用する村の宿屋は大繁盛だという。作物の育成には不向きな土地だったが、ディメルの力で地質そのものを変えたお陰で、多くの実りを享受できるようになった。修行で腹を空かした剣士諸君を餓死させずに済みそうだ。


 ちなみに、剣士諸君の試験は、ディメルと闘って勝つこと、というルールになった。カーネルが勝手にそう決めた。洗濯物を干している時でも、買い物中でも、構わず戦闘申込をしてくる小童こわっぱどもにキレて、道場の地下からマグマが噴き出したことがあったそうだ。


 カーネルと弟子がそろって土下座して、ようやくマグマは収まった。だが、道場があった場所は切り立った崖になってしまい、卒業試験を受けたい者は、まずその崖を上りきることが条件となった。自業自得とはいえ、卒業難易度がさらに上がってしまったのは不運としか言いようがない。


 このように、村には退屈しない時間が流れ、人と財源が増えた村はどんどん大きくなり、それなりに大きな街に発展していた。


 逆に、首都では剣士が減ってしまって、大臣たちの悩みの種になっているとのことだ。首都から地方への人口流出は長い歴史でも初めての事で、首都では悩ましい話でも、小さな町や村にとっては地方創生の希望を持てる出来事となった。


 ディメルの統治で魔物の脅威はほぼ無くなったことも、人々が未来に希望を持つ一因だった。人と魔物は住む土地を決め、互いに不可侵とすることで、無駄な血が流れることも少なくなった。


 そんなわけで、チュートリアルのルールも見直される予定だ。いたずらに魔物の命を奪う現在のやり方は、絶妙な距離を保っている二者の関係保持のためにも相応しくないとの判断からだ。制度が固まるまでの代案として、カーネルの卒業試験がチュートリアル代わりになっている。


 それはすなわち、まだ剣士にも魔法使いにもなれていない者がその職に就こうと思ったら、ディメルに勝たなければならないということ。チュートリアルの根底を揺るがす条件を出され、首都の大臣たちは非難の嵐を浴びているそうだ。


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