第7章 第2話
ジェブラとの決着がついた日。ディメルが森に帰った後、アッサムは、カーネルから、村人から、首都からやって来た腕利き達から、何がどうなったのかと質問攻めにあった。正直に答えても、なかなか信じてもらえなかったが、同じ首都で修行するウバーが証言してくれたお陰で、事実だと受け入れてもらえた。
人類に
「そういうわけで、魔王は母さんだってことはみんな知ってるから、いつ村に戻って来ても大丈夫。世界を救った英雄を追い出すわけないじゃない。いつでも、村に戻ってきなよ」
「それなら、どうして早く言わなかったのよ」
「だって、母さんだって、ずっと僕に母親だって言わずに黙ってたし」
「……ほんと、誰に似たのかしら」
目が合って二秒後、二人は噴き出し、笑いあった。
「僕さ、旅に出ようと思う。ウバー達から六年も遅くなっちゃったけど、やっと剣士になれたんだ。遠い場所だと、母さんの制御が及ばなくて暴れている魔物もいるみたいだから、僕が退治する」
「そう」
「だから、あの家は母さんに守ってほしいんだ」
「……たまには帰ってきなさいよ」
「……うん!」
「この場所ともお別れね。結構気に入ってたんだけど」
「綺麗だけど、一人でずっといたら気が狂いそうになるよ。母さんが本当に魔王になったら、誰も手をつけられないからね」
「言ってくれるわね」
立ち上がり、手を一振りして、異次元空間を消し去る。泉も無くなり、鬱蒼とした森の中に着地した。
「泉、無くなっちゃった」
「ええ。もう必要ないから」
ディメルは水、地、風といった自然と対話し、世界で起きている情報を受け取る力がある。水は世界中の至る所にあり、川、沼、湖、海となって世界中を繋げている。だから、泉を発生させ、そこから世界中の情報を得ることにしたた。ジェブラが首都に居ると知ったのも、水を通して伝わってきたからだった。
異次元空間の隠し場所はどこでもよかったのだが、アッサムが生きる村にほど近い森の中にした。たとえ会うことも知ることも叶わずとも、愛しい息子の成長を近くで見守りたかった。
まさか十二歳になった彼が異次元空間に入り込んで会いに来るとは思いもしなかった。愛した夫にどことなく似た顔立ち、カーネルが持っていた首都の刺繍入りタオル。信じられなかったが、あの日、目の前にいる少年がアッサムだと確信した。
大きくなった息子をみて喜ばない母親はいない。自分が母親だと言ってしまえたら、どれだけ楽だったか。それでも、魔王として接した。何度も何度も会いに来るように。剣を向けるアッサムの成長を、自分勝手な思い出として胸に仕舞い、いずれ自分を超えてくれる日を願って。
「そう、もう必要ないの」
母を超え、自分で決めた人生を歩もうとする息子。その息子の帰りを、十八年の間離れた家を守りながら待つ母。水のように、世界のどこにいても繋がっているのだから。
「アッサム」
母の呼びかけに、息子が振り向く。
「十八歳の誕生日、おめでとう」
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