第5章 第7話
ジェブラが腕をひと払いすると、強烈な風が吹き荒れた。村の看板や、入口近くの家の屋根が吹き飛ぶほどの威力。その風圧をもろに受け、四人は柱や外壁に叩きつけられた。ダジリンとニケアは瓦礫の上で気絶してしまっていた。
「あの女、出てこんな。自分を匿ってくれたというのに、村の危機を見捨てるとは、ヒトの心までも失ったと見える。子供に戦わせてこそこそ隠れる村人も、程度が知れるというもの」
「魔物が……ヒトを、魔王を、僕たちを、語るな……!」
全身に切り傷を負いながら、アッサムは立ち上がる。その隣に、ウバーが立つ。四つの目には、諦めや恐れの感情は無い。
「父さんも、母さんも、強く生きた。僕も強く生きると約束した。お前なんかに、負けない!」
「戯言を。私に一撃すら入れられぬ貴様が、強いだと? 冗談でも笑えんな。……む? 待て、貴様のそのペンダント……」
アッサムの胸で輝くペンダントを見やり、数瞬の間思案する。そして、自身の記憶の中で、適合するものを見つけ出した。
「……そうか。貴様はあの夫婦の子か。今の魔王の子が貴様ということだな」
「だったらどうした」
「わはははは。これはいい。貴様を餌にすれば、あの女も姿を見せるだろう」
強い風が吹き、砂煙が上がった。ほんの一瞬、目を庇った隙に、敵の姿は消えていた。そして――。
「ぐほっ……」
アッサムの隣から、呻き声が聞こえた。隣にいた幼馴染の腹から、槍が突き出していた。槍は背後から勢いよく引き抜かれ、腹から血が噴き出す。ウバーが倒れていく。
アッサムには、この光景が、スローモーションのようにゆっくりに見えた。うつ伏せになった背中が赤く染まっている。ウバーの身体の下に、血液の津波が広がっていく。
「ウ、バー」
十五年前の魔王戦の時は、父が腹に穴を空けた。今度は、ウバーが同じ状況になっている。
「嫌だ……。ウバー……」
六年前に、父はアッサムの手の届かない場所へ逝ってしまった。ウバーまでもが遠くへ逝こうとしている。アッサムの視界が滲み、血の海にしずくが零れていく。
「他人を心配している場合ではないぞ」
アッサムは息ができなくなった。左手ひとつでアッサムの首を掴み、持ち上げる。
「魔王よ、これでも姿を現さんのか? 息子の首の骨が折れるぞ」
より強く握られ、血流が滞る。呼吸ができない苦しさに加えて、喉を潰される苦痛、目が飛び出そうになるくらいの圧迫感。アッサムの抵抗する力が弱っていく。
その時、少年を痛めつける魔物の背中に、火や雷の雨が降り注ぐ。傍観していた首都の魔法使い達が、一斉に攻撃を仕掛けたのだ。
「テグラ大臣の名を語った魔物め、覚悟!」
数百を超える魔法の着弾。巻き起こる砂埃。両手が塞がったジェブラの背後からの攻撃。誰もが、無事ではいないと思っていた。砂埃が晴れ、月下の元に晒したその姿は、魔法を放つ前と同じ状態だった。傷ひとつ負っておらず、せいぜい砂で背中を汚した程度だった。
「目上の者に対する態度がなっておらんな、諸君。覚えておきたまえ、魔法というのは、こうやるのだ」
アッサムを手放し、左手を
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