第5章 第6話

「当時と変わらぬ剣さばき、なかなかのものよ。だが」


 ジェブラはそれを上回る槍さばきを見せ、その上、魔法をも操る。地面から人の身体ほどの岩が飛び出し、カーネルの腹に衝撃を与える。


「ぐはっ!」


「貴様は当時と変わらぬかもしれぬが、私は当時の自分を遥かに超えた。貴様など相手にもならんと知れ」


 血反吐を出したカーネルを、蹴りで浮き上がらせる。アッサムの前に落ちてきた彼の状態を見れば、これ以上の戦いは無理なのは明白だった。


「カーネルさん!」


 ダジリンが回復術を施す。だが、術が発動する前に、ジェブラの風魔法が到達し、ダジリンもろともカーネルを吹き飛ばした。


「ダジリン! お前、よくも!」


 アッサムが剣を向けた。カーネルが勝てなかった相手に、アッサムが勝てるはずはない。そんなことは承知の上だ。黙って見ていられるほど、少年の性根は腐っていない。


「わはははは。次の相手は小僧か! これはいい。少し痛い目を見せれば、魔王の居場所を教えてくれるかもしれんな」


「誰が言うもんか!」


「ば……馬鹿!」


 ウバーにそう言われて気付いた。アッサムの一言が、相手に情報を与えてしまった。


「ほう、つまり小僧は魔王の居所を知っているのだな。貴重な情報、感謝する」


「ぼ、僕は何も知らないぞ!」


 取り繕っても後の祭り。おまけに嘘が下手すぎる。ジェブラがさらに大笑いするだけだった。


「どおれ、少しばかり可愛がってやろう」


 かけっこをしても十秒はかかりそうな距離にいたはずの敵が、急にアッサムの目の前に現れた。そうかと思えば、腹に重い衝撃が走った。強烈な膝蹴りで、あばらが折れたのが分かった。


「うっ……」


「苦しいか? まだ終わらんぞ」


 アッサムの右腿に、槍が突き刺さる。


「ぎゃあ!」


 仰向けに横倒しになったアッサムの左腕が踏みつけられ、固いものが砕ける音がする。


「いぁあ!」


「すまんすまん。関節を増やしてしまったようだ。どれ、ついでにもうひとつ増やしてやろう」


 今度は左脚に槍の柄を叩きつけられ、脚が変な方向に曲がった。


「があ、あ……」


「魔王の居場所さえ言えば、楽にしてやるぞ? それとも、もう少し我慢するか?」


 アッサムの右腕に置いた足に、力を込める。肉が押しつぶされ、骨に圧力がかかり、限界を超えて折れる一歩手前のところで、ふっとその力が引いていった。


「なんだ、お前は」


「アッサムにこれ以上の手出しは許さない」


 ウバーが敵に斬りかかり、アッサムを庇って前に躍り出たのだ。


「邪魔するか!」


「もちろんさ!」


 答えたのは、ウバーではなくニケア。ジェブラに向かって、挨拶代わりの雷魔法を放った。当たりはしなかったものの、距離を取らせることには成功した。その隙に、ダジリンがアッサムの元へと向かう。


「アッサム!」


 アッサムの傍にひざまずき、回復術をかける。折れた骨も、つぶれた肉も、みるみるうちに回復していった。全快したアッサムは立ち上がり、再び剣を持つ。


「ありがとう、みんな」


 四人は一瞬微笑み合い、敵に向き合った。カーネルがダジリンが手当てしたが、気を失ってしまっている。この村を守れるのは、彼らしかいなくなってしまった。


「せっかくヒトの皮を被って大勢連れて来たのに、墓穴を掘ったな。正体を現してしまったせいで、せっかくのお仲間達は加勢してはくれないみたいだぜ?」


 ウバーの言う通りだった。大臣テグラだと思っていた存在が、魔物の姿をしたジェブラだったのだ。その変わり様を見た首都の剣士諸君、魔法使い諸君は、混乱して一切手を出してこない。


「そのようだな。ここまで役に立たない腑抜けどもだったとは。まあよい。私一人で充分だ」

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