第5章 第5話

「……! おい、後ろの青二才ども! 寝っ転がってる仲間を避難させろ!」


 予想だにしない出来事を目の当たりにした青二才達は、うろたえるばかりでカーネルの指示など耳に入っていない。


「……ったく! おい、こいつらをどけるのを手伝え!」


 カーネルは青二才達を動かすことを諦め、アッサム達を指揮した。指示を受けた彼らは頷き、地面に散らばった剣士達を抱えて急いで村に運び込んだ。それを数回繰り返し、一人残らず避難させたところで、テグラから出た黒いガスは、別の何者かのシルエットを形作った。テグラは、糸の切れたマリオネットのように倒れていった。


「その姿……。お前はジェブラだな」


「覚えていてくれて光栄だよ、英雄カーネル殿」


 十五年前の魔王イルボスとの戦いにおいて、カーネルと対峙し、負け、大きな傷を負いながらも、アッサムの父メイージの腹に穴を空けて消え去った、魔王の側近。悪魔を模した装飾の槍に相応しい持ち主が、再びこの地に降り立った。


「しぶとく生き残ってやがったか。なんでわざわざ、また来やがった」


「先日、魔王のなり損ないのあの女がやって来てくれたものでな。今度はこちらが足を運んだというわけだよ」


「あのお大臣に憑りついて、か? 魔王の側近ともあろうお方が、みじめな真似を」


「私とて、人間に成り代わるなど虫唾が走ったよ。魔王イルボス様ご復活のため奔走し、六年前にあの女に奇襲をかけたが、返り討ちにあってしまってね。まだまだ私では力不足だと理解した。ならば、国を味方につけてしまえばよい。国の中枢に入り込むには、大臣に成り代わるのが一番なのでな。この六年間、我ながらよく我慢したものだと、自分を褒めてやりたいよ」


 カーネルは納得した。あの基地外じみた魔法を駆使するディメルが、あれほどの致命傷を負っていた訳を。中身は魔物でも、入れ物はれっきとした人間だ。一方的に蹂躙されるばかりで、ディメルの方は手出しをしなかったのだろう。


 加えて、ここに引き連れてきた青二才達からも攻撃されたことだろう。一撃一撃は大したことが無くとも、数の暴力に任せて放たれた攻撃を全てその身に受け続ければ、ダメージは蓄積する。


「ヒトを見下し、抹消しようとたくらやからが、ヒトに頼るなんてな。いい笑いもんだ」


「頼るとは人聞きの悪い。これは支配だ。腕力だろうが権力だろうが、大きな力の前では、ヒトはこうべを垂れて従う他ないのだ」


「悪いが、俺は頭を下げてやる気も、従ってやる気もないぞ」


「構わん。首を垂れて命乞いしたとて、聞くつもりは毛頭ないのでな。だが、あの女を差し出すなら、せめて苦しまぬように殺してやろう」


「残念だが、ディメルは俺に制御できるようなタマじゃないんでね。どこで何してるのかなんざ知らないのさ。俺は嘘は言ってないぜ?」


「ふん。素直に渡すつもりがないなら、今すぐ冥府に送ってくれよう」


「魔物ってのは、本当に言葉が通じないな」


 今度は、カーネルから仕掛けた。相手が人間のテグラなら手加減せざるを得ないが、魔物のジェブラであれば、手を抜く必要は無い。先ほどとは段違いの速度と威力の剣技を放っていく。


「ほう、腕は落ちていないようだ」


「黙れ。メイージの仇は取らせてもらう」


 カーネルはさらに速度を上げ、怒涛の斬撃を繰り出した。

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