第5章 第4話

「ったく。会話になんかなりゃしねえ」


 相手が武器を構えたのを認めた上で、カーネルも剣を抜く。


「言っとくが、先に仕掛けたのはお前さん達だ。後で俺達を悪者にしないでもらおうか」


「人類の敵たる魔王を匿っておいて、どの口が言う。構わん、切り伏せよ!」


 テグラの合図で、前衛の剣士二十人ほどが一斉にカーネルに斬りかかる。だが、彼らは瞬きもしていないのに、カーネルの姿を見失っていた。次に気づいた時には、剣を落とし、地面に伏していた。


「これでも、それなりに修羅場をくぐった剣士だったんでね。安全な首都でお稽古しかしてないような青二才には遅れはとらんよ」


「何をしておる! 次、かかれ!」


 今度は後衛の魔法使いたちが、詠唱を終え、火だの水だのを放ってきた。ダジリンとニケアが防御魔法を張ろうと詠唱するが、カーネルの方が早かった。剣を一薙ぎすると、強烈な風が吹き荒れ、火も水も夜空の藻屑もくずと消えた。


「ディメルの魔法を見慣れてる俺にとっちゃ、こんなのは火遊び水遊びだ。俺の首を獲りたいなら、もっと真面目にやんな」


 剣も魔法も弾かれ、首都の達はたじろいだ。どうやら、先になぎ倒した剣士や、魔法を放ってきた魔法使い達と、実力はさほど変わらないらしい。これが今の首都の実力か――。カーネルは自分が現役だった頃と比べ、平和ボケした世界の心臓に住まう連中に嘆息した。


「ええい、まったくもって使えん奴らよ。もういい。この私自らが相手をしてくれよう」


 テグラは剣士たちを押しのけ、長槍を取り出した。黒で統一されたその槍は、悪魔を模した装飾が施され、禍々しい印象を与えた。カーネルは、その槍に見覚えがあった。


「お前さん、その槍をどこで手に入れた?」


「さあな。今から死ぬ奴に教えるなど、無駄なこと」


 言うが早いか、テグラは猛烈な速度で突きを放ってきた。くだらない会議を本業とする、戦闘の素人の動きとは思えなかった。カーネルをもってしても、回避はギリギリだった。油断をすれば、やられる。


「ほう、かわしたか」


「……あんた、何者だ? ただの大臣じゃないだろう」


「わはははは。ただの大臣か。権力者たる大臣にとは、面白いことを言う」


「俺の知ってるお大臣ってのは、運動音痴ばかりだったんでね。少なくとも、腕の立つ剣士や魔法使いより実力が高い大臣なんて、あんたが初めてだ」


「お褒めの言葉、ありがたくいただいておこう。次は、貴様の首をいただきたい」


「笑えない冗談だ」


「残念ながら私は本気だ」


 テグラの猛攻がカーネルを襲う。突き、払い、突き。カーネルが攻撃を仕掛けようものなら、柄の後ろで受け止め、払ってカウンターされてしまう。長いリーチを存分に生かした戦法で翻弄する。百戦錬磨のカーネルだからこそ、相手が只者ではないことがよく理解できた。


「相変わらず、やるではないか」


「相変わらず、だと?」


 槍には覚えがあるが、その所有者たるテグラには面識がない。しかし、彼の口ぶりから察するに、カーネルと過去にあったことがあるということになる。


「ふん。貴様から受けた屈辱、忘れはせんよ」


「お前は……まさか」


 醜悪な笑みを浮かべると、テグラの身体から黒いガスのようなものが噴き出した。

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