第4章 第6話

「今から十五年前。お前達が産まれた。村の宝である、お前達が」


 ここで、カーネルの雰囲気が変わった。起承転結の転が始まる。


「幸福が溢れる村に、凶報が届いた。魔王が、この村に襲撃をかけようとしているというしらせが入った」


「……」


「そんな報せを前もってどう受け取ったのか疑問……って顔だな。メイージの奥さんのおかげだ。あいつは世界でも五本の指に入ると言われた大魔法使い。この世に生きる自然を味方に、この世界で起きていることを知る力があった。だから、魔王の企みもあいつにはお見通しだったのさ」


 話の途中でウバーが一瞬眉を潜めたが、その胸の内をまた読んだカーネルが、補足を入れた。話は続く。


「だが、魔王の方も、さすがと言ったらいいのか……報せを受けた三十分後に攻撃を仕掛けようとしてやがった。逃げても間に合わないギリギリの時間に、わざと襲撃の情報を漏らしたんだろうよ。突然攻め入るより、絶望で青くなった人間の顔を見られるからな。魔王にとっては、お遊びのつもりだったんだろうよ」


 黒髪の美少女の姿が思い浮かぶ。彼女がそんなことをするとは、信じられない。だが、カーネルが嘘を言っているとも思えない。アッサムの思考は、決着のつかない天秤がシーソーのように揺れ続けていた。


「この村の近くに魔王の根城があるって噂は事実だったってこったな。剣士も魔法使いもとっくに村を出て行ってたから、戦えるのは俺と、アッサムの両親の三人だけ。状況は絶望的だった」


 ――だが。


「お前の母ちゃんは心が強かった。三人しかいない、と俺やメイージは思ったのに、あいつときたら、こう言いやがったんだ」


 ――三人もいるじゃない。何が不満なの?


「唖然としたよ。魔王は大群率いて攻めてくるってのに、全然動じてなかったんだからよ。その後は何だか笑えてきてな。やってやろうっていう気になったよ」


 自分達が赤ん坊の頃に起きた、現実味のない出来事。誰一人として、余計な茶々を挟むことはない。顔も知らない母親の生き様が、アッサムは誇らしく思った。


「村人は集会所に集めて、オババに任せた。赤ん坊だったアッサムのこともな。押し寄せてくる大群に、俺達は突っ込んでいった。お前の母ちゃんは、規格外だった。各個撃破していくしか術がない俺達剣士を尻目に、どでかい魔法で大群を半壊させやがったんだからよ」


 魔法使い見習いのダジリンが、口をあんぐり開けている。魔法の心得のある者なら、今の話がどれほどの偉業か想像に難くない。


「多勢に無勢だったはずが、いつの間にか同数対決になっていた。大群をほぼ片づけて、残ったのは、魔王イルボスと、その側近二体……アルジェとジェブラだけだった」


 カーネル達も疲労は蓄積していたが、ほぼ無傷で生き残っている。側近二体は男たちが貰い受け、魔王には大魔法使いたるアッサムの母が直接対決する構図になった。

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