第4章 第7話

 魔王の側近と剣士は、一進一退の攻防戦を繰り広げたが、一対一の戦いであれば、カーネルやメイージが遅れを取ることはない。長い戦いの末、側近を討ち取ることができた。


 一方、魔王イルボスと大魔法使いは、いまだに決着がついていなかった。炎が舞い、水が弾け、雷が散り、地面がめくれ上がる激しい魔法の撃ち合いで、天変地異にも等しい荒れ方をしていた。


 ――ぬう。小娘風情ふぜいがやってくれる。


 ――ヒトの一生は短いの。アンタにとっては小娘でも、守るものを持った大人の女なのよ。母親をなめないでちょうだい。


 ――貴様こそ、あまり儂をなめるでないぞ。儂は魔王。人間一匹に止められるほど、甘くはないわ。


 ――それにしては、アタシを仕留めることもできていないようだけど?


 どちらも攻撃の手を一切休めることなく、さらには攻撃しながら対話している。カーネル達は、魔法の衝突の影響で村に降り注ぐ岩石や氷を弾き返す役に回った。魔王と大魔法使いの戦いに加わったところで、足手まといになるのは明白だった。


 ――このまま魔法を撃ち合うだけでは、決着はつかぬ。小娘よ、剣で勝負をつけようではないか。それとも、それでは勝ち目はないと踏んで断るか?


 ――あら、好都合だわ。アタシが魔法しか使えないと思ったら、大間違いよ。


 天地を荒らす両者の魔法の撃ち合いが止まった。それぞれ、魔法で具現化した剣を構え、接近戦に持ち込んだ。


「剣の勝負になったところで、俺達じゃ邪魔になるな」


「同意だ、カーネル。魔王は知らないだろうが、うちの奥さんは魔法だけじゃない。剣の腕も世界有数の強さだ。その上、美人だし、料理はうまいし、夜は――」


「ノロケはその辺にしておけ、メイージ。胸焼けを起こしそうだ」


「そうか……。まだまだあったんだがなあ。それじゃ、俺達は村の守りに徹することに――」


 メイージの発言と意識はそこで途切れた。彼の腹から、槍が突き出ていた。背後から、突き刺されていた。


「メイージ!」


「ぐう……我々をもってして相打ちとはな。人間よ、今に覚えておれ」


 くずおれたメイージの後ろで、彼の血に濡れた槍を構えた魔物――カーネルが相手をしていた、魔王の側近のジェブラ――が、捨て台詞と残像を置き土産に逃げていくところだった。


「しっかりしろ、おい!」


 慌てて抱き起すが、反応は無い。辛うじて生きているが、出血が多く、このままでは危険だ。カーネルは自分の不甲斐なさに眩暈がした。自分が仕留めそこなったばかりに、戦友が致命傷を負ってしまった。


 ――メイージ……!


 一瞬の隙。魔王ジェブラが見逃すはずはない。

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