第4章 第3話

 アッサムは軽はずみな自分の行動を反省したが、ウバーは別のところで違和感を覚えた。


「カーネルさん。もしかして、彼女を知っているんですか?」


「……どうして、そう思うんだ」


 質問に、質問で返す。これは、イエスの返事をしているのと同義だ。それを理解した上で、ウバーは畳み掛ける。


「さっきのカーネルさんの発言を聞く限り、目覚めた魔王がこの村を襲う可能性なんて全く考えていないように感じました。それだけじゃない。起きた後の対応を、魔王と会話して解決しようとしているようにも思えます。自分の話に耳を傾けてくれることが分かっているとしか思えない。そんなことを確信できるのは、相手が知り合いのときだけだ」


「お前は昔から洞察力に優れていたが、世界を旅してさらに磨きをかけたようだな」


「論点をすり替えても、おれは同じ質問を続けますよ」


 アッサムは二人のやりとりを見守るしかできなかった。カーネルは、魔王について詳しく語ってくれたことはなかったが、それは、カーネルが魔王と戦ったことも会ったことも無いからだと思っていた。ウバーの理路整然りろせいぜんたる考察が、それを覆した。


「カーネルさんが、魔王さんと知り合い……? 魔物はあたしたち人間を見ると襲ってくるのに、知り合いになれるの?」


「そんなことは、おれは知らない。だけど、現にアッサムは魔王と会話しているし、三年も戦っているんだ。それはもう知り合いみたいなものじゃないか。アッサム、君はどうやって魔王と会えたんだ」


 黙り込むカーネルは諦め、今度はアッサムに問いを投げる。


「どうやってって言われても……。森を歩いていたら、泉に出て、そこにたまたまいたところに出くわしただけで」


「その泉に、どうやって辿り着いたのかと聞いている」


 質問が、詰問に変わった。初対面の魔王に負けず劣らずの圧に、思わずすくみ上がる。もう一人、黙り込む人間が増えただけだった。ウバーの納得いく答えなど、アッサムは持ち合わせていない。その詰問にも、「どうやってって言われても……」としか言いようが無いのだ。


「おれ達は近距離で歩いていたのに、君は突然消えた。いくら呼んでも、返事がない。ダジリンと探していたら、もやがすっと晴れて、魔王を背負った君が現れた」


「確かに、ウバーの言う通りだったよ」


 ダジリンの同意で追い風を得たウバーは、黙る二人にさらなる追い打ちをかける。


「おれもダジリンも泉の存在なんて知らないし、今日も辿り着けなかった。それなのに、君だけが辿り着いた。君は何らかの手段で泉に行けたが、その手段を知らないおれ達は行けなかったとしか思えないだろう。それに、昨日、カーネルさんは泉の存在を知ってると言った。二人は、おれ達に何を隠しているんだ」


 たった二人の幼馴染に疑いを向けられ、アッサムは心底傷つき、動揺した。何も隠してなどいないのに、なぜ自分がここまで非難されるのか。もう、何を信じていいのか分からなくなった。

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