第3章 第7話
アッサムは目覚めた。起き抜けに見た天井は、記憶にあるいつものそれではなかった。見慣れた天井は、もっと近い。起き上がって見た景色も、慣れ親しんだ自宅ではなかった。ぼんやりと、昨晩の出来事が蘇ってくる。
――そうか、僕、負けちゃったんだ。
幼馴染との対戦成績の負け数を増やしてしまった。本物の剣士は、やはり強かった。剣士でない者が、剣士相手に戦って勝てるなど、普通に考えればありえない。それでも、悔しいものは悔しい。
途中で気を失ってしまった彼は知らない。ウバーは気絶すらしなかったものの、体力の限界まで振り絞って戦った末の勝敗であったことを。剣士として旅をしたウバーと遜色ないくらいに、アッサムもまた大きく成長していたのだ。
回想を終わらせたのは、鼻腔をくすぐる良い匂いだった。香ばしいパン、焼いたベーコンに卵。次に、腹の虫が盛大に声を上げた。森から帰って早々、気絶してしまったアッサムは、昨日の夕方から何も口にしていない。
音に気付いた家主が、笑顔を向けてくる。
「おはよう、アッサム。よく寝てたなあ。朝飯できてるから、食ってけ」
「か、カーネルさん! な、なんで」
「ウバーにしこたまやられて気絶してたから、そのままウチで寝かせてたんだ。たっぷり寝て腹減っただろ? 俺の料理じゃ味はそれなりだが、食えんことは無い。遠慮しないで食ってけ」
カーネルに促されてテーブルに向かうと、先ほど鼻の奥で捉えたメニューがたっぷり並んでいた。加えて、ジャムにミルク、いろんな種類の果物をカットした盛り皿も用意されている。
「うわあ……美味しそう」
また腹の虫が暴れた。恥ずかしさで顔が熱くなる。
「ははは。腹が減るのは元気な証拠だ。顔洗って、早く食え」
「はい」
外の井戸で顔を洗って、口をゆすいでから、テーブルの席に着いた。カーネルがパンを一口
普段はご近所からいただいた野菜や、買った肉や卵を使って自炊している。ウバーやダジリンの両親に誘われて、食事をご馳走になることもあったが、基本的には自分の世話は自分でしている。それが、父との約束を守ることにも繋がると思ったから。
こうやって、誰かと一緒に食事を摂るのは久しぶりだ。しかも、いつも自分で用意するのは、パンに野菜やハムを挟んだだけの簡単なもの。こんなに種類豊富な朝食は、もっと久しぶりだった。
カーネルは「俺はもう歳だからそんなに食えない。あとはお前が食ってくれ」と言って、自分ではほとんど食べずに、アッサムに勧めてくれた。憧れの村長からの気遣いに感謝し、おいしい手料理をありがたくいただいた。あたたかい食事と想いで、アッサムのお腹は満たされた。
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