第3章 第6話

 村の外。観客の一人すらいない決闘の時間が、まもなく訪れようとしていた。ウバーとアッサムが、二年の時を超えて対峙する。


「僕は、一度も君に勝ったことがなかった。それでも、君が旅に出てからも、魔王と闘いながら腕を磨いてきたんだ。今日は、負けないよ」


「腕を磨いてきたのは、おれも同じだ。肩書なんてものは、他人から評価や賞賛されたい奴が鼻を高くするために好んで持つものだと思っている。それでも、剣士という職業に恥じない生き方をしてきたつもりだ。勝つのは、おれだ」


 ウバーがローブを脱いで、地面に落とした。ローブ越しでも分かった筋肉は、実際に見るとさらに逞しく感じられた。謹厳実直きんげんじっちょくな彼の性格が、その身体にも表れていた。


「さあ、やろう。アッサム」


 斜めに一振りして空気を切り裂くと、ウバーは半身をずらし、木刀を自分の目の位置で水平に構えた。その切っ先は、アッサムに向けられている。攻防一体の構えで、アッサムにとっては、ウバーがどう攻めてくるのか動きを読みにくい。


 対して、アッサムは柄頭を自分のへそ下に、切っ先をウバーの目に向ける構えを取った。切っ先を向けられている以上、相手は不用意に切り込んでくることができない。攻撃の型のようでありながら、防御の型だ。


 子供の頃のチャンバラとは違う、それぞれの成長を経て向かい合う真剣勝負。観客は傾いた太陽だけ。二人の視線がぶつかり、同時に動き出した。




 決着がついたのは、ゆうに一時間を超えた頃だった。太陽も長い戦いに飽きたのか、地平線の向こうに帰ってしまった。最後に会った魔王が見上げた空が、もうすぐやってくる。


「ただいま帰りました」


 村長宅のドアが開き、二人の少年が戻ってきた。


「おかえり」


 ダジリンが優しく出迎えてくれる。帰還を知らせた彼に抱えられて気を失っている、もう一人の幼馴染に向けて、ダジリンは回復術をかける。


「今まで待っててくれたんだな」


「もちろん。だって、二人が怪我をしたら、手当するのはあたしの役目だもん」


 意識を失った少年をソファーに寝かせた後は、もう一方の彼に回復術をかける。こちらも、無傷というわけにはいかなかったようだ。


「悪いな」


「いいの。明日は魔王に会いに行くっていうのに、怪我したままじゃダメでしょ」


 寝息を立てるソファーの上の彼に、カーネルが毛布を掛ける。その寝顔を見ながら、優しく頭を撫でた。


「こいつはこのまま俺が預かる。明日、迎えに来てやってくれ」


「分かりました。おれ達は、自分の家に帰ります」


「ああ。久々に戻ったんだ、両親に元気な姿を見せて、安心させてやれ」


 頷いた二人は、それぞれの家に向かっていった。

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