第3章 第2話

「おーい、アッサム! 早く戻れ!」


 村の入口へ戻ると、村の子――ルギリがアッサムに両手を振っていた。帰りを出迎えてくれたことなど、これまで一度もない。何かあったのだろうか。一抹の不安を感じ、駆け足で村に入った。


「どうしたんだよ、ルギリ?」


「急いで村長の家に行け! 早く!」


 尋常ではない素振りをされ、持っていた手土産を放り投げて、アッサムは村長宅を目指した。まさか、村長に何かあったのか――? 薪に足を引っかけて転びそうになり、村人にぶつかりそうになり、肥溜めに落ちそうになりながら、必死に足を動かした。


「カーネルさん!」


 勢いよくドアを開けて、村長の家に入る。当の本人は、客人――フード被ったローブ姿の二人組――とにこやかに談笑していた。倒れてもいないし、怪我をしてもいない。


「おいおい。ウチのドアを壊す気か、アッサム」


「か、カーネルさん、何ともないの?」


「ん? 何がだ?」


「いや、だって……ルギリが凄い慌てた様子で、ここに行けって僕に言ったから」


 村長は腑に落ちたという表情で頷いた。


「それで、俺に何かあったんじゃないかと思ったわけだ」


「う、うん……」


「ははは、俺は何ともないよ。アッサムに早く来てもらいたかったのは事実だがな」


「まったく……相変わらずだな、アッサムは」


 ローブの一人が、アッサムの名を口にした。驚いて、今更ながら客人の方に顔をやる。会話に混ざった男は、ようやくローブのフードを下ろした。その顔は、記憶の中にあるある人物の面影を強く感じるものだった。


「もしかして……ウバーか」


「もしかしなくても、おれだよ」


「じゃあ、そっちは……」


 もう一人のローブは立ち上がり、こちらもフードを下ろした。


「アッサム、久しぶりね」


「ダジリン!」


 二年前に旅に出た幼馴染の二人だった。ウバーは記憶の中の彼よりもさらに体格が良くなり、ローブ越しでも筋肉質なのが分かる。一方のダジリンは、小柄なのは相変わらずだが、チュートリアルの時のようにローブが足元まで届くような状態ではなく、様になっていた。


「二人とも、戻ってたのか!」


「つい、さっきな。カーネルさんに挨拶がてら、ここでアッサムを待たせてもらうことにしたんだ。アッサムに知らせて連れてくる役を、ルギリが買って出てくれてな」


 カーネルが含み笑いしながら、アッサムを――正確には、その先に居る人物を指さした。


「で、お前はまんまと勘違いさせられたわけだな」


「そういうこと」


 振り向くと、アッサムの後ろにルギリがいた。


「アッサムが捨てた魔物の素材、手間賃代わりに貰っておくぞ」


「あ、こら!」


 アッサムの手を躱し、あっという間に逃げ去っていった。


「あの野郎……今度会ったら覚えておけよ」

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