第3章 第3話

「アッサムは変わらないね。優しいままだね」


 垂れ目を細くして笑顔を向けてくる。そんなダジリンの前でこれ以上悪態をつくわけにもいかず、頭を掻いて二人に向き直った。


「お帰り、二人とも」


「ああ、ただいま」


「ただいま。ウバーとアッサムに久しぶりに会えて、嬉しいな」


 二年の間の冒険と修行で、すっかり剣士と魔法使いとしての風格が漂うようになっていた。そんな二人に比べ、アッサムは自分の時間が止まってしまったような疎外感を抱いた。しかし、その感情は胸に仕舞い、二人の帰還を心から喜んだ。


「アッサムは村の周りの魔物を退治していたの?」


「ああ……まあ、そんなところ」


「アッサムが魔物退治をしてくれるお陰で助かるって、村のみんなが言ってたよ。村への危険を退けられるし、魔物から取れる素材で服や道具を作れるし、アッサム様様だってさ。お前、すっかり村の用心棒じゃないか」


「ま、まあ、僕もご飯食べるためには、何かしないといけないし」


 魔王に毎日挑み続けては負ける生活を続け、ついでに道中の魔物を狩っているとは、言い出せない。それに、ご飯を食べるために手に入れた素材は、さっきルギリに持っていかれてしまったのだが……。カーネルは、三人の会話を、彼らが幼かった頃を懐かしむように、黙って聞いていた。


「二人は、いつまで村にいられるの?」


「おれは明後日には発つよ」


「わたしはしばらくゆっくりしてきていいよ、って言ってもらえたんだあ。だから、一年くらいいられるのかな」


「いや、それはゆっくりってレベルじゃないぞ」


 男三人が同時にツッコミを入れた。ダジリンのおっとりマイペースな性格も、相変わらずのようだ。


「久しぶりに仲間が帰ってきてくれて、よかったな、アッサム。俺も、お前たちが無事で帰って来てくれて嬉しいよ。どうだアッサム、ウバーに稽古つけてもらうのは? 魔王を倒すのに、なにかヒントを得られるかもしれないぞ」


 カーネルが爆弾を落としてくれた。ウバーもダジリンも驚愕し、その視線がアッサムに集中する。隠したいわけではないが、心配させまいと思っていた気遣いが、ぶち壊しになった。


「アッサム……お前、いまでも諦めてないのか?」


 頭ひとつ分だった身長差が、さらに開いてしまったウバーに見下ろされ、委縮して頷いた。


「そうか……」


「魔王さん、いまも森にいるの?」


 魔物に付けのダジリンが、興味津々といった様子で訊いてくる。そういえば、カーネルやウバー達に、あの日のことは話したが、同行してもらったことはなかった。一人で挑むのが、チュートリアルのルールだから。


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