第2章 魔王の弱点は魔王に訊いてみよう

第2章 第1話

「カーネルさん、敵を一瞬で消し炭にできる技を教えてくれ!」


「魔王にでもなるのかお前は」


 敗戦回数に、さらに三十プラスオンして帰ってきたアッサムが、そこかしこにこぶをつくって村長の元を訪ねた際の会話がこれである。


「技じゃなくて、アイテムでもいい」


殺戮さつりく兵器でも探してるのか。仮にそんなモンがあったら、国の管理下にあるに決まってるだろうが」


 チュートリアルに攻撃アイテムは禁止だと説明されたのに、堂々と破る気でいる。恥もへったくれもない。


 試練成功の条件は、初めて出会った個体と同じ種族の魔物を倒すこと。だが、もしその種族がチュートリアル中に絶滅してしまった場合は、探しても永遠に見つかることはなくなってしまう。この世界にどれだけの個体が存在するのか分からないザコ敵ならまだしも、魔王という唯一無二の存在がいなくなってしまえば、チュートリアルの戦闘対象を変えざるを得ない。


 アイテム使用で魔王討伐の戦闘が無効になったとて、試練の対象が変われば、チュートリアルをやり直せる。この三年で、アッサムは、身体と、屁理屈交じりの的な思考回路を成長させたのだった。変な方向に育っていく村の子を残念に思いながら、木刀を投げ渡す。


「俺と勝負してみろ。今のお前がどれくらいの実力なのか、見てやる」


 還暦間近で、現役の頃よりは衰えたとはいえ、腰は曲がっていないし、筋肉も落ちていない。向かい合った時の覇気は、中年とは思えない迫力だ。


 カーネルから最後に稽古を受けたのは、十二歳になる前の日だ。チュートリアル前の最終調整の意味もあったが、自信をもって試練に臨めるよう、気合を入れてくれたのだ。


 あの時とは比べ物にならない圧に、背筋がぞくりとするのを感じながら、アッサムは構えた。だがアッサムも、この三年の間ただ負け続けただけではない。鍛錬と実践を繰り返し、剣の腕を磨いてきたのだ。


 カーネルが瞬きをした一瞬の間に、一気に接近して横一文字に斬りかかった。――受け止められた。だが、相手がカーネルなら当然のこと。想定内だった。アッサムは間髪おかずに、袈裟斬り、唐竹割り、突きを繰り出す。そのすべてが弾かれた。


「もっと飯食え」


 気づいたときには、地面に伏していた。現実を追いかけてくるように、右の頬と、切れた口内が痛んでくる。四つん這いに起き上がると、口元から血が垂れた。左の拳を突き出したカーネルが、そのままの格好でアッサムを見下ろす。


「俺にすら一分持たない程度で、魔王に勝つなんて無理なんだ。――諦めるんだ」


 

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