第2章 第2話

 諦めろと言われて断念する程度なら、三年も粘っていない。多少のずるをしてでも試練を乗り越えたいのは、父との約束を守りたいという一心だった。いつまでもチュートリアルにこだわるアッサムから理由を聞いた村人は、口々に言った。そんな汚いやり方で試練を乗り越えても、父親は喜ばないだろう、と。


 ――そんなの、分かるわけないじゃないか。父さんは、もう死んでしまったんだから。


 死人に口なし、どんな意見も感想も、声も、もう聞くことはできないのだ。魔王を倒さないとクリアできないというなら、魔王を倒すまでだ。とはいえ。


「カーネルさんの言うことももっともだ。単純な力比べじゃ、魔王には勝てない」


 せめて弱点でも分かれば、対処のしようもある。しかし、村の大人たちにいくら訊いても「知らない」という返事しか来なかった。頼みのカーネルも、こればかりは本当に知らないようで、勝ちたければ実力を上げるしかないと言われた。アッサムに意地悪して嘘を言っているわけではなく、誰も把握できていないのだ。


 少し考えればわかること。魔王の弱点が明るみに出ているなら、世界中の剣士や魔法使いがその首を狙って押し寄せるはず。そうしないのは、誰も弱点が分からないからだ。


 ここでアッサムは思った。誰も弱点知らない、というのは、弱点が無い、ということと同じではないと。つまり、知らないだけで、弱点はあるのではないか。もしその情報を手に入れられれば、勝機はあるのではないか。


 アッサムの行動は早かった。四つん這いから復活すると、鉄の剣を持って走り出した。


「お、おい! どこへ行くんだ、アッサム!」


 村長の声を無視し、村を出て、森へ走った。一度も立ち止まらず、いつもの場所、泉まで一気に駆けた。いつものように、魔王はいた。泉の傍、草の絨毯の上で、横座りしていた。


「あら、また来たのね。今日はもう終わりかと思っていたわ」


 視線すら向けずに、空を仰いでいた。遠い昔を思い返すような仕草――。アッサムは首を振って余計な思考を飛散させた。息を整えながら歩み寄り、二つの角を頂く彼女の傍に座った。


「てっきり、剣を振ってくるかと思ったわ。今回は随分紳士的なのね」


「お前を倒すのは今度だ。それより、聞きたいことがある。」


「あら、何かしら」


「お前の弱点を教えろ」


 高速デコピンが飛んできた。


「一瞬でも紳士的だと思ったアタシが馬鹿だったわ」

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