第1章 第4話
三人は、森の入口まで一緒に行動し、そこで分かれた。大人たちの気配を背後に感じるものの、ここから先は一人で対処しないといけない。味わったことのない緊張感のせいで、心臓が自分のものではないように暴れ回っていた。
――僕はできる。僕はできる。カーネルさんみたいになって、魔王を倒すんだ。
深呼吸をして、はるか先のゴールを思い出す。スタート地点に立つための試練だ。ここで止まってはいられない。黒い地面を踏みつけ、前に進んだ。
離れたところから、「はあっ!」という声が聞こえた。あれは、ウバーだ。魔物との初戦闘が始まったのだ。闘気がこちらまで伝わってくるようだった。それはつまり、近くに魔物がいるということ。アッサムも、もう何かと出逢ってもおかしくない。
――僕はできる。僕はできる。
心が折れたら負けだ。自分で自分におまじないをかけ、せわしなく目を動かす。微かな音も聞き逃してはならない。
ウバーの戦闘音はもう聞こえない。きっと、決着がついたのだ。勝ったにせよ負けたにせよ、大人が近くで様子を見ているのだから、命に関わるようなことにはなっていないはず。……いや、ウバーなら危なげなく勝っているだろう。アッサムは彼との模擬戦で一度も勝利したことがないし、大人相手でも力負けしないのだ。
――僕も、きっとできる。たぶん、できる。もしかしたら、できる。
だんだんと気弱になっていくおまじない。静寂がやたらうるさい。静かなる騒音の先に、枝を踏む音が聞こえた。唾を飲んで、足音を立てないように、慎重に進む。剣の柄を握る。
森の木々がまばらになり、隠れるにはやや心許ない風景になった。この先には、綺麗な泉があったはず。七歳になったばかりの頃に、腕の立つ戦士たちと一緒に森に来たときは、怖くてほとんど誰かの背中に隠れていた。もう少し、ちゃんと周りを見ておくんだった、とアッサムは後悔した。
回想は早々に切り上げ、歩みを進める。今度は、水が跳ねる音がした。あそこには魚などいないのだから、空から何か落ちて来たか、魔物が水浴びでもしているか、どちらかだ。後者であってほしいという気持ちと、あってほしくないという気持ちが半々。待ち望んだ日がやってきたというのに、気弱な性根が顔を出してくる。
カーネルから貰った、今はバンダナとなったタオルに触れ、勇気をもらう。意を決したアッサムは、勢いよく飛び出した。
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