第1章 はじめの一歩は魔王から

第1話 第1話

 この世で讃えられる職は何か、と聞かれたら、まともな教育を受けた子供ならこう答える。


「剣士!」

「魔法使い!」


 そう、この世界――ドルメルンでは、剣術もしくは魔術に長けた者が讃えられる。首都の国王やお国の大臣は別として、町や村の長も、平民よりは上だが、剣や魔法のプロよりは地位が低いとみなされる。


 この世界には危険な魔物がそこら中にはびこり、人々に日夜脅威をもたらしている。力を持たない人間など、ひとたび魔物に襲われれば、ひとたまりもない。死んでしまえば、金も権力も意味をなさない。


 自分で自分の身を守るのは当然として、他人の命までも守る力のある者が尊ばれるのは必然であった。


 首都のたちの立場を考えれば、剣士や魔法使いに権力を持たせすぎるのは危険であるのだが、そうは言っても戦う術を持った大臣などそうそういない。自分の立場と命のバランスを取って、ある程度は力が外に散るのも大目に見る他なかった。


 そういうわけで、剣士や魔法使いは少年少女の憧れの職であった。全員に「剣士にも魔法使いにもなりたくない!」と言われてしまえば、やがて魔物と闘える者はいなくなり、人間は滅ぶしかなくなるので、大変ありがたい話だ。


 そうは言っても、よちよち歩きの幼児や、第二次性徴期すら迎えていない子供においそれと危険な職を与えるわけにもいかないため、十二歳からその職に就くこと――正確に言えば、その職に就くための試練を受けることを許可するルールができた。


 十二歳を迎えた少年少女たちは、それぞれが住む町や村で試練――"チュートリアル"と呼ばれる――に挑み、無事クリアすることができれば、晴れて剣士、あるいは魔法使いの卵となる。


 いま、首都から遠く離れた森の奥の村で、一人の少年が立ち上がった。彼の目的も、見知らぬ同齢の面々と同様、試練を乗り越え、剣士になること。これからの未来に希望を抱き、重い鉄の剣をぶらさげ、寝起きの目を擦って眩しい世界に歩き出した。

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