第4話 背徳感も悪くない
俺は、すぐに後悔した。
振り返った先には、憂いた顔が俺の目の前で熱量の篭った眼差しを見せる幼馴染。
物言いたげな瞳。その目線に耐えきれなくて、俺はもう一度画面へと視線を戻そうとした。
だけど、幼馴染は許してはくれなかった。逃すまいと俺の片腕に寄りかかり、腕を絡ませる。昨日よりも近い顔。ぎゅっと握られた腕と肩。
程よく発育に良い谷の間に埋まった心地。俺は冷や汗が出るほどに顔が引き攣っていたと思う。
もう、これ。
無理だろ。
「ねえ、トビ」
今にも理性が吹き飛びそうな甘い吐息混じりに、熱の篭った声が俺の耳に熱い息を吹きかける。
身体を無理矢理引き剥がせなくて、目線だけが泳いで画面もまともに見えてない。
目を合わせたら終わり。
状況を打破する考えも浮かばない俺は、両手を膝の上に置いたまま固まっていた。声をかけられたところで、女子高生に手を出せるはずも無い。
と言うよりもだ。
うちの親、アホだろ。一人暮らしの息子のところに女行かせるとか。
イカれてんのか。俺が手出せないヘタレと思ってるのか。
そして、言われた通りノコノコ来るお前も、馬鹿だろ。
頭の中は他人に責任をなすりつけようと必死で意味不明な御託を並べた。そうでもしないと、もう無理だったんだ。
「トビさ。私、十六歳になったんだけど」
「……知ってる」
「そんなに……私って魅力ない?」
あるから困ってるんですが。
「トビ……女の子好きでしょ?」
いや、大抵の男は好きだと思うよ。
問題はそこじゃ無いんだよ。
「……俺、未成年に手出す訳にはいかないんだけど」
十六歳過ぎたとはいえ、同意がなければ犯罪です。
いや、十六歳でなくても、同意がなかったら犯罪になるんだけど。
「ちゃんと付き合えば問題ないもん」
「お前、ちゃんとの意味知ってるのかよ。つーか、男なんてそこら辺にいるだろ。同級生とか」
あ、言ってて悲しくなってきた。俺なんで傷ついてるんだと自分で自分にツッコミ入れている間も絡まる腕の力も強くなっていく。
「ちゃんと……トビの事、好きだもん」
緊張で震えた声。握りしめて絡みつく腕の体温が、徐々に熱くなる。熱の篭った声に、視線。
俺の我慢は限界だった。
もう知らん。せめぎ合っていた頭の中で本能が「もう良くね?」とか言って、理性があらぬ方向へと吹き飛んだ。
「知ってる」
絡みつく腕をそのままに、俺は身体を幼馴染の方へと向ける。空いた手で頬に触れると、さらりとした肌が妙に熱っぽい。俯いた顔を上に向かせれば、頬には赤みが差している。
十六歳の精一杯。
告白も、俺の気を引こうと必死なところも、本当は余裕なんてないんだろう。
「トビ、夏休み終わったら、また彼女作るでしょ? そう言うの見たくも聞きたくもないの……私の事、嫌いなら言って。もう、会いにこないから」
潤んだ瞳で、精一杯を上乗せして意地を張る。
その姿が、あまりにも可愛くて。俺は、認めるしかなかった。
六歳も年下の幼馴染に惚れてるって事を。
余裕なら、俺だって無い。
触れた手に力が入り、そのまま幼馴染の顔を引き寄せた。
唇が触れるその間際。
「俺も好きだよ」
返事の反応を楽しめば良かったかもしれない。でももう、待てなかった。
理性なんて知ったことか。
触れた唇は、なんとなく甘い気がした。最初は、少しづつ。
重ねるたびに募る背徳感に味を占めて、そのままベッドに押し倒した。
ほんの最後に残った理性で、念の為、幼馴染がどう言う顔か見ておこうと思った。
ここで泣いて嫌がるなら、それまでだ。そう覚悟してみた顔は、熟したりんごみたいに赤く染まって、不安気ながらも俺の瞳を見つめていた。
「……俺も我慢の限界なんだけど、大丈夫か?」
念の為。瀬戸際の理性で出た言葉に、恥ずかしさが込み上げてきたであろう赤く染まったりんご色が、口元を抑えながらもこくんと頷いた。
初々しさのある仕草で、俺の中の背徳感がより高まった。
口元を覆っていた手を退けて、赤みの増した唇にもう一度キスを落とす。
抵抗もしないが、何をどうすれば良いか戸惑って慣れていない感じが、また、たまらない。
俺はクセになりそうな背徳感ごと、幼馴染を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます