???年

第48話 女子高生、宗滴と共に……


「目が覚めたかの」


 私は目を覚ますと、目の前には見慣れた光景が広がっていた。


「……唐門……え……ええっ⁉ ……ここって、現代っ⁉」


 朝の静かな時間に佇む、私の好きな風景の一乗谷の唐門。そして見慣れたひしめき合って建つ町並は無く、一部再現されただけの町並、山肌に櫓もなく、緑豊かな山城と、礎石の風景が広がる、令和の一乗谷にいた。


「ここが、凛殿の世界か。何も変わらんのぉ」


 私は、どうして現代に戻ってきたのか。どうして宗滴もいるのか。それらの不明な点が多すぎて、私は頭が混乱しているというのに、宗滴は、この状況に取り乱すことはなく、じっくりと唐門を見ていた。


「凛殿。折角じゃから、この時代の一乗の土地を案内してもらえるかの」

「あ、はい。分かりました」


 何が起きたのかは分からない。自力でけど、現代に戻ることもできなかったのなら、再び戦国の世に戻ることは出来ないのだろう。私は、何か手掛かりがつかめるかもしれない思い、知っているだけの知識で、宗滴を現代の一乗谷を案内した。


「あそこが上城戸です」

「ほう。父上が見たら、卒倒してしまうじゃろうな」


 唐門から少し歩くと、私は関所がある上城戸を見せた。

 今は、河原の土手のような、何もない場所になってしまっているが、戦国時代では、上城戸を抜けると、多くの家屋、寺院があり、朝倉街道があり、北國街道、そして京の都につながる道につながっている。


「栄枯盛衰。廃れるのは、あっという間じゃの」


 宗滴はそう言葉を漏らしてから、私は近くにある一乗谷にある庭園の一つ、諏訪館跡庭園を案内した。


 一乗谷朝倉氏遺跡には、4つの庭園がある。


 湯殿跡庭園、諏訪館跡庭園、南陽寺跡庭園、朝倉館跡庭園。それらの庭園は、特別名勝、特別史跡、重要文化財の3つの指定を受けている、全国的にも貴重な場所。そしてそれらの庭園の中で、一番規模が大きいのが、諏訪館跡庭園。


「ふむ……。このような庭はあったかの?」


 実際のところ、この庭園は宗滴の死後に出来た庭園。だから宗滴は、諏訪館跡庭園にある、4メートルを超える滝石、滝石の後ろに生える、青々とした紅葉を鑑賞していた。


「殿は、宗滴が亡くなった後、近衛殿とは違う、別の女性を側室に迎えます。その方のために、殿はこのような立派な庭園を造りました」

「そうか」


 じっくりと庭園の中を見た後、庭園の下方に見える、復原された町並みのほうを見ていた。


「何故、あそこだけ家が建っておるのか?」

「えっと……。昔の家はこんな感じですよーみたいな感じだと思います」


 あの町並に入れば、私たち現代人にとっては、戦国時代にタイムスリップした気分になる。私は、昔の一乗谷の風景を見てきたので、特に物珍しく見ることはないが、日本にはここだけしか出来ない体験が出来る。


「そうか。後世の人々への教材になる。良い心掛けと言えるじゃろう」


 宗滴は満更でもない顔をしながら、町並みを歩き、そして再び唐門前の広場に戻ってきた。


「凛殿。今の越前は、どこが栄えておるのかの?」


 一乗谷が栄えていたのは、ずっと昔の話。今は一乗谷から北西に離れた場所が越前、今の福井県の中心部になっている。


「丁度、バスが来ますね」


 私は、ちょうどやって来た路線バスに乗って、宗滴と共に、福井市の中心部に向かった。





 バスに乗って30分ぐらいで、福井駅前に到着した。


「……ほう……これは魂消たまげた」


 宗滴は、最近再開発された福井駅前を見て、顎が外れそうになっていた。


 そこまで知名度が高くない福井県。


 けど、最近は新幹線が福井県まで延伸して、福井県は日本各地から再注目されるようになった。駅前には高い高層ビルが建って、そして恐竜化石発掘が日本一ということで、駅周辺にはたくさんの恐竜のモニュメントが設置されて、県外からの観光客を出迎えている。私も最初見たときは、たくさんの恐竜がいてびっくりし、つい写真を撮って、SNSで友達と共有してしまったぐらいだ。


「あれは、足羽あすわの山……。そうなると、越前の国府は、きたしょう辺りになったのか」

「今は北ノ庄とは言いません。後にここを治めるお殿様が、北ノ庄という地名が縁起が悪いと言って、名前を福が居る、福居ふくいって名前にしたんです」


 後に、江戸幕府が福井と書き間違え、そのまま福井藩もそのまま使用していったのが、今の福井県の由来。


「そうか。それは喜ばしいことじゃの」


 そう言っているが、少し寂しそうな表情をする宗滴に、私はこう尋ねた。


「やっぱり、悔しいですか?」

「少しはの。歴代の朝倉家が築き上げた町が、こうもあっさりと無くなり、越前の民からの記憶から消えつつあるのは、無念であるのぉ」

「宗滴様。現代の越前――いや福井県の人は、一乗谷の記憶からは消えていませんよ」


 私は新幹線の駅舎を、宗滴に向かせた。


「あの駅舎、一乗谷の唐門をモチーフにしています」


 福井県の顔となる駅舎のデザインに選ばれるほど、一乗谷は県民から愛され、福井県を代表する観光名所になっている。


「そうかそうかっ!」


 宗滴は、愉快そうに笑いながら、私と共に福井駅前周辺を観光した。


 宗滴は、恐竜や高層ビルなどには目もくれず、どちらかというと、広大な水堀がある、福井城に興味を持っていた。私も福井城までは深くは知らないので、スマホで調べながら、城の特徴を教えた。





 福井駅前周辺を観光してから、私たちは一乗谷に戻って、唐門をくぐりぬけ、館跡内にある、義景の墓所に立ち寄った。


「若殿。我は朝倉宗滴である。いるなら、顔を出しなさい」


 宗滴は、義景の墓石の前でそう言うと、急に一乗谷に突風が吹き、木々が騒がしくなった後、急に辺りが静かになったと思った時だった。


「お久しゅうございます。宗滴様、そして女子、朝倉凛よ」


 私たちの背後には、見慣れた若かりし頃の義景ではなく、剃髪し、赤茶色の法衣を着た義景が現れた。

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