第41話 女子高生と、揺らぐ朝倉家
※地震の描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
月日は流れ、一乗谷は秋の時期に入っていた。私が過ごしてきた、令和の時代みたいに、猛暑が続く残暑の日は少なく、もう日が落ちる頃には、肌寒い日も増えてきた。
三好家との戦い以降、朝倉家は特に大きな動きを見せる事は無く、私は日課の素振りや、たまに風情がある光景に遭遇すれば、チェキで写真撮影をしていた。
「凛殿。殿がお呼びだ」
秋晴れの朝。一乗谷の住民が行き来している中、私は川辺から朝倉館の外観を眺めていると、義景の側近になった景近が、私を呼びに来た。
「将軍様が、ついに京に戻る決断をされた」
ずっと一乗谷に身を潜めていていた、13代将軍足利義藤が、ついに京に戻る決心をしたようだ。
「別れの挨拶をする感じですか?」
「それしかないだろ」
義藤と別れるのは、少し寂しい気分だが、私もすぐに義藤が待機している、朝倉館に向かった。
「朝倉様。長い間、お世話になりました」
私が朝倉館に到着し、朝倉館の会所で、義藤と別れの挨拶をすることになった。義藤は、義景の横に座り、そして私が入室すると、義藤は深々と頭を下げていた。
「朝倉様の活躍により、今の京は、三好家の勢力が弱まっていると言う事。三好様によって担ぎ上げられた、十四代将軍の義栄(よしひで)も阿波国に逃亡したと言う話なので、一度戻ろうと至ったわけです」
義藤は、京に滞在している家臣と、常に書状を交わし、京の近況を把握していた。
「これからの将軍様を、私は応援し続けます」
私も義藤に忠誠を誓うために、深々と頭を下げた後、義藤は大きな声で、こう言った。
「これを機に、足利家が再び光り輝けるよう、私は義藤から名を改め、義輝と名乗ろうと思います」
私が最初に義藤と出会ったのは、まだ幼い、小学生ぐらい年齢だったが、今は将軍らしい、凛とした成人になった事。そして私が知る人物が、目の前に現れる瞬間を、私は見ることが出来た事に、私は目尻から涙が零れていた。
「将軍の名にふさわしい、素敵な名前ですね」
「朝倉様に褒めてもらえるなら、これから堂々と名乗りましょう」
私の話を聞いて、義輝も自信がついたのか、この朝倉館か出ていく際にも、足踏みも力強く見えた。
「それでは」
義輝は、義景が手配した数十名の家臣と共に、一乗谷を発とうとした時、大きな地鳴りが聞こえ始めた。
「今回は強いっ!! 皆、地面に伏せっ!!」
半年前辺りから、越前は弱い地震が頻発していた。しかし今回の地震は、これまで経験したことないぐらいの、大きな揺れが一乗谷を襲った。
ドゴォオオオオンっ!!!!!
そして遠くから、大きな爆発音が聞こえた後、城下町の建物が、所々で倒壊し、館内にいた馬も大暴れしているのか、鳴き声も聞こえる。一瞬で一乗谷は阿鼻叫喚に陥った。
「……皆、無事か?」
突きあげるような大きな揺れ、大きな縦揺れが1分、いや2分近くあっただろうか。私自身も経験したことのない、大きな揺れが収まると、義景が最初に声を上げた。
「……私は平気です」
私は地震が治まるまで、頭を抱えてしゃがんでいた。自分の身を守る事で必死で、私は放置してしまった義景と義輝の様子を確認すると、両者とも、景近などの付き人に守られていて、無事だった。
「大丈夫なら、凛は一帯の状況を確認してほしい。私は、館周辺を確認し、将軍様は、安全が確認できるまで、暫くこの地に留まってください」
私は、義景の命令通り、北の方から状況を確認する。北には下城戸、赤淵神社、春日神社、西山光照寺、安波賀などの多くの人がいる一帯だ。一番被害が出る場所だと思い、下城戸に向かった。
「本当に、どこかの物の怪が出て以降、この地は荒れてばかりですよ」
そして下城戸に向かう途中には、私を極度に嫌っている、朝倉家一門衆の筆頭格、景鏡の屋敷がある。景鏡は、地震で屋外に避難し、ひびが入った塀を見つめながら、わざと大きな声で、そんな皮肉を言っていた。
「おやおや。これは延景殿。ついに、己が罪深い人だと認め、ここを出る決心をしましたか?」
「狼狽えるだけの、自己中な景鏡様とは違って、私はちゃんと民衆の人のために動くんですよ」
景鏡と話している暇はない。私がそう反論しても、景鏡は特に反論してくる様子はなかったので、私は下城戸の方に行き、下城戸を警備する、兵の人に話を聞くと、この大きな地震が起きた原因が分かった。
「凛殿。あれをご覧ください。加賀の方で、黒煙が上がっています」
兵が指差す方を見てみると、夏に発生する、大きな入道雲のような黒煙が見えた。
この時代の人間には、天高く上げる煙を起こせないだろう。そう考えると、あの煙は火山の噴火、つまり加賀国にある霊峰、白山による噴火だろう。
白山は、令和の時代では休火山になって、普段は登山客が多く利用する、有名な山になっている。どうやら、戦国時代では、白山の火山活動は、活発だったようだ。
「さっきの地震で、住民が混乱しているかもしれません。もし次の地震を恐れ、人々が押し寄せて来ても、出さないようにしてください」
兵の人にそう言ってから、私は大きな破損は確認できなかった下城戸を抜けて、私は安波賀の方に出て、安波賀の町に出る。
「大丈夫ですからっ!! 慌てないで、今は家の中に入らないで、外で待機していてくださいっ!!」
かなり揺れたので、今は大丈夫な建物でも、来るかもしれない余震で倒壊するかもしれない。不安そうな表情をしている住民に、私は声が枯れるまで、呼びかけを続けた。
「凛様ーっ!!」
ようやく人々が落ち着いて来た頃、私の元に福岡吉清が駆け寄って来た。
「よじ……ぎよざま……? ど、どう……じまじだ……?」
「はわわ……宗滴様より大変なことになっています……」
吉清の、聞き逃せない話に、私は吉清の両肩を掴んで、宗滴の事を聞いた。
「先程の揺れで、宗滴様が転倒されてしまいました」
それは一大事な事なので、私はすぐに宗滴の屋敷に戻ると、宗滴は、布団に横たわっている物の、複数の家臣に囲まれながら、元気そうに話している姿があった。
「凛殿は、無事のようじゃな。ご覧の通り、儂は情けなく驚いてしまい、転んでしまったわい」
「……だでないのですか?」
「儂と一緒で、喉から転んだのかの?」
私の枯れた声を聴くたびに、宗滴が笑ってしまうので、宗滴の為にも、私は吉清に耳討ちながら、吉清に代わりに話してもらうことにして、宗滴と話した。
廊下を歩ている時、突然の揺れに、宗滴は転んでしまい、脛を痛めたと言う事らしい。しばらく安静にしていれば、すぐに復帰できるだろうと、宗滴は愉快そうに話した後、私は今回の揺れの原因は、火山による噴火だと説明した。
「白山に近い、平泉寺周辺が心配じゃの。明日、近くに居城を持つ、景鏡に出向させるべきかもしれん」
あまり関わりたくないのだが、越前の危機でもあるので、事情を説明して、義景に通じでお願いしてもらうか。
「ほれ。儂は大丈夫じゃから、日が完全に落ちる前に、皆は早く帰りなさい」
宗滴の様子を見て、他の家臣たちは安堵した様子で、屋敷を出て行った。
「凛殿。少し良いかの?」
宗滴は、部屋に残っていた、私と吉清を呼んだ。宗滴の妙に落ち着いた表情に、私は胸騒ぎがした。
「転倒した際に、骨を折ってしまったから、もう儂はまともに歩けぬ。もう馬に乗り、戦場に立つことも出来ないじゃろうな」
その宗滴の言葉に、私と吉清は絶句し、吉清に至っては、あまりにもショックで気を失いそうになっていた。
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