第26話 女子高生と、渡月橋の最終決戦
三好長慶の策略に引っ掛かり、私は失意の中、義藤は、私に介錯をお願いして、私の目の前で切腹をした。
「何しているっ!! 早く将軍様の傷口を塞げっ!!」
切腹した途端、義藤は蹲り、足元に血だまりを作って、気を失っていた。動揺して、何も出来ていない私の代わりに、猪助が率先して動き、朝倉家の兵に、義藤の延命措置を行おうとしていたが、ここで邪魔が入る。
「何をしているっ!!? 切腹は武士にとっての美学だっ!!! 止めるなど、武士として失礼であるっ!!!!」
首実検をしていたはずの三好長慶が、大きな声を上げ、私たちの前に現れ、引き連れ来た兵で、義藤を助けようとしている猪助たちを妨害しようとしていた。
「さっさと首を落とさんかっ!!! 将軍殿は、腹を裂かれた痛みで、苦しそうであるっ!!! 誰も介錯しないのであるのなら、私が介錯を務める次第っ!!!」
ゴリラのように大柄な三好長慶は、義藤を殺そうと、太刀を引き抜いて、そして首を落とそうとしていた。
「これも、三好家の計画ですか?」
義藤が、ここで命を落としてしまったら、未来が大きく変わってしまう。そう思った私は、体が動いて、長慶の太刀を、自分の太刀で受け止めていた。
「かっかっかっかっ!!! 貴殿が、実弟の腕を切り落とした、小娘かっ!!! 実に興味深いっ!!! この三好筑前守と手合わせ願おうっ!!!」
見た目通りに、長慶の力は、私とレベルが違う。差があり過ぎて、すぐに私の太刀は跳ね返されて、体勢が崩されている、一瞬の隙でも、すぐに長慶の追撃が来る。
「遅いなっ!!!」
「ぐっ!!」
長慶の太刀が、私の左腕を掠める。長慶は具足では隠しきれていない、小袖が露出している箇所を的確に斬りつけ、そして私の腕からは血が流れ始める。
「貴殿は女だから、足軽の軽い具足一式でも重く感じるだろうなっ!!!」
腕を斬られた事に動揺している時に、私の右太ももに、流れ矢が命中し、血が流れ始めた。このままでは、私は長慶に殺される。体勢を立て直すため、私は全力で逃げて、距離を取る。
「逃げるのかっ!!! 敵に背を向けるなど、何て無礼な女だっ!!!」
あれだけ重装備の甲冑を身に付けている長慶だが、私を追いかけるスピードは速く、すぐに追いつかれそうになっていた時、長慶の体に大きめの石を投げつける、吉清と近衛殿の姿ががあったが、長慶は気にする事は無く、私を追い続けた。
「ここを死に場所に選んだかっ!!!」
長慶から逃げた先は、再建中の渡月橋だった。川の中で戦うのは、手負いの私には不利すぎる。川に飛び込んで、中に身を隠すほどの水深は無いので、私はここで長慶と対峙することにした。
「幕府を乗っ取るつもりなんですか?」
太刀を構え、私は脂汗を流しながら、愉快そうに笑う、長慶に聞いた。
「乱れた世を統一し、地方の武将どもを従わせるのは、愉悦ではないかっ!!! 今の将軍の首を晒せば、三好家の力に
「足利家は、応仁の乱以降、力が弱くなってしまいましたが、今でも各地では、将軍様を慕う武将も多いです。地方の武将を甘く見過ぎです」
そして私は大きく息を吐いて、ゾーンに入る。
「越前国を治める、朝倉家の家臣、朝倉凛が、三好筑前守、長慶公にお灸を据えます」
諱を呼ぶ事は、大変失礼な事。この時代だと、公で諱を呼ばれるのを嫌い、そして相手を焚きつけるのには、持って来いの言葉だ。
「朝倉がどうして私の諱を知っているっ!!!」
「さあ?」
長慶を討ち取るチャンスは、1度だけだろう。私は淡白な返答をして、太刀を長慶を正面から振り落とした。
「面白いっ!!! さっきとは別人のような、太刀さばきっ!!! 太刀に重みを感じるっ!!!」
この太刀は、受け止められるのは分かっていた。だからすぐに身を引いて、再び長慶に向けて太刀を構える。
「だが、今で万策尽きたようだなっ!!! 今の一撃で手が震え、体の限界が見えるっ!!!」
何度もゾーンを連発するのは、私の体に。相当の負担がかかるようで、私自身には分からないが、長慶、そして心配そうに見守っている、吉清と近衛殿からだと、私の体は、相当ガクガクと震えているようだ。
「どうするっ!!! 弱く、非力な女なのに、この私に刃向かったとして、貴殿の武功は称え、切腹する許可をしてやるっ!!!」
何だか、長慶は勝った気でいるようだ。完全に油断している。だから私は、思いっきり足を渡月橋に踏み込んで、長慶が気が付く前に、正面に立ち、そして太刀を振りかざす。
「――っ!!」
しかし、私は再建中の渡月橋の上だという事を忘れていて、いつも以上に足に力を籠めたら、橋板が抜け落ちて、私は体勢を崩してしまった。
「惜しかったっ!!! この私の懐に入れたことを評価し、一瞬、楽に殺して――」
『バァン!』
ここまでかと。私は歯を食いしばって、目を瞑ろうした時、遠くから銃声が聞こえた。
「――っ!!」
銃声が聞こえた数秒後、長慶の太刀は遠くに飛ばされていた。無防備になった長慶に出来た隙に、私は大分体勢が崩れていても、再び太刀を振りかざし、そして長慶の胴体を斬りつけた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
長慶を斬りつけた後、私のゾーンは解除され、その場に座り込んだ後、一気に刀傷と流れ矢で受けた傷が痛み出し、全身が筋肉痛のような痛みと疲労感で、全く動けなくなった。
「見事と称賛しておこう」
やはり、体勢が崩れていたのがいけなかったのか、長慶の傷は浅く、胸板に若干傷が入っただけであった。
「一つ問おう。朝倉は、もう銃を扱える伏兵がいるのか?」
銃を扱える人は、朝倉家にはいない。そう答えようとしたが、ゾーンの反動で、呼吸をするのが精いっぱいで、首を動かす事も出来なかった。
「討ち取るには惜しい武士だ。貴殿を生かし、三好家の重臣として迎え入れたいところだが、私の体に傷を作った貴殿を、許す者はいない」
やはり、長慶に殺される。けど私は、何も出来ない。
「将軍殿は、直に死ぬ。だから貴殿が、しっかり介錯を務めよ」
長慶は、そう言い残して、私の目の前から去った。そして私は駆け寄ってくる、吉清と近衛殿の声が聞こえる中、気を失い、橋の上で倒れた。
桂川での三好、細川の戦いが終わって、3か月が経った頃。ずっと昏睡状態だった私は、ようやく目を覚ました。
「お久しいです。延景様と会話出来ず、わっちはずっと寂しく思っていました」
枕元には、明智十兵衛、後の明智光秀が座っていた。
「……って、将軍様はっ!? 将軍様は、どうなったんですかっ!!?」
私は体を起こし、光秀の襟を掴んで、血相を変えて、切腹した義藤の容態を聞いた。
「落ち着いてください。毛屋殿の迅速な対応により、将軍様は無事に生きております」
光秀の言葉に、私は安心して、再び布団の上に寝転んでしまい、その間、光秀から、私が寝ている間に起きた事を聞いた。
今、私がいる屋敷は、近衛春嗣の屋敷で、近衛殿が頼み込んで、私の面倒を見てくれたようだ。
足利義藤は、戦死したという事になり、目立たぬよう、ひっそりと過ごしている。そして京の都は、義藤の甥を将軍にしようと動き、三好家が政権を握っている。
そして京に駐在していた朝倉家の兵は撤収、そして吉清は、近衛殿を連れて、越前に戻った。
「三好筑前守を撃ったのは、十兵衛様ですよね?」
朝倉家に、銃を扱える人はいない。そして火縄銃を扱え、朝倉家を援護する人と言えば、明智光秀しかいない。あの戦いで、長慶の太刀を、銃で遠くに飛ばしたのは、光秀だと思い、私はそう聞いたら、光秀はにっこりと笑った。
「はい。ここで延景様が討ち取られてしまっては、延景様を素敵な場所に連れて行けませんから」
「素敵な場所……ですか……?」
「ええ。わっち、明智十兵衛は、延景様に尾張国を案内したいと思った次第です」
尾張国と言えば、朝倉家の因縁の相手、織田信長が生まれ育ち、統治している場所だ。
「理由は?」
「興味ありませんか? 大うつけと言われた悪餓鬼が、短期間で下剋上を成し遂げた。そんなうつけ者と、延景様は会談する機会があるのですよ」
物凄く怪しい話だ。マルチ商法の勧誘を受けている気分だが、私はあの信長に会えると言うのなら、ぜひ会って話してみたい。だから光秀の誘いに乗ることにした。
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