第25話 女子高生と、渡月橋の戦い ~細川家と決着へ~

 細川家に、三好家の考えを伝えるため、私たち朝倉家は、伝令兵になった。数百名がこっそりと動くのは難しいが、なるべく見つからないよう、建設中の渡月橋になるべく身を潜めながら、川を渡ろうとした。


「止まってくださいっ!!」


 けど、対岸には細川家の軍が待ち構えていたので、私は、朝倉家の兵にそう言った。


「こちらは、三好家からの使者ですっ!! 大将から伝令を預かって来ましたっ!!」


 皆が止まってから、私は大きな声で、そう言うと、対岸の兵から、一人の兵士が出てきた。


「我は、逸見へんみ駿河守するがのかみっ!! こちら側の兵を無惨に殺しておいて、何を言うかっ!!!」


 細川家は、かなりご立腹の様子。私も細川家の立場だったら、同じように話を聞こうとしないだろう。


「交渉は決裂じゃっ!! 三好軍勢を追い返せっ!!」


 逸見は、こちらの話を聞く気配はなく、そのままこちらに突撃してきた。


「こちらも、相手を撃破する気で迎えますっ!!」


 今のこの状況は、対話だけでは解決しない。頑なに対話に持って行こうとしても、逸見は進軍を止めず、あっさりと朝倉家が全滅してしまう。現代みたいに、対話で戦争を会話できない、優しくない時代。私も覚悟を決め、付いてきてくれた朝倉家の兵に、そう呼び掛けた。


「……行きます」


 さっきまで足が冷たく、足の感覚が無くなるぐらい、足が動けなかった。けど、大きく息を吐いて、再びゾーンに入ると、そんな事は気になる事は無く、近づいてきている、逸見の兵を冷静に見ることが出来ている。太刀を構え、私は先陣を切って、細川家と衝突しようとした時だった。


「新入りっ!! ちょい待ていっ!!」


 猪助の大きな声で呼び止められると、私のゾーンの状態は解除されてしまい、再び足に冬の川の冷たさを感じ始めた。


「おいっ!! 逸見って、の者だろっ!? どうして細川側に付いてるっ!?」


 猪助は武田と言った。


 戦国時代、そして武田家と言ったら、風林火山、甲斐の虎と呼ばれた、武田信玄が思い浮かんでしまう。けど越前の隣国、若狭にも分家の武田家がいる。京から遠い、甲斐の武田家に援軍を呼ぶとは思えないので、若狭にいる武田家の方だろう。


「昔から、細川様とは長い付き合いと言えば、三好側も納得するじゃろうっ!!」


 私たち、朝倉家は足利将軍家と強い結びつきがあるから、仕方なく足利家に付き、そして足利家に力を貸している御供衆、三好家に付いている。そして武田家は、細川家と親交があるから、足利家を討伐するため、協力している。


「逸見殿っ!! 信じぬかもしれないが、こちらは京に駐在している朝倉の兵だっ!! ここで争う事になれば、武田家は朝倉家に宣戦布告をする事になるぞっ!!!」


 猪助がそう言うと、逸見の兵たちは動きを止めた。朝倉家だと知って、逸見は争うのを止めたのかと思ったのだが、逸見駿河守本人は、大笑いしていた。


「滑稽な言い訳じゃっ!! こちらより兵が少ないから、命乞いのつもりで、敵国の家名を利用するとは、失礼極まりないっ!! 三好の兵を残酷に殺す口実が出来て、気楽に刃を向けれるわいっ!!」


 猪助の話で、かえって逸見を勢い付けてしまい、再び進軍を始めた。


「って、事らしいな。新入り、これで情けをかける事無く、討ち取れるぜ」

「余計にやりにくくなったんですけど……」


 無駄な争いは避けたい。けど、両者とも臨戦態勢に入ってしまい、ここで衝突を回避するのは、難しい。


「絶対、ここを突破します」


 再び呼吸を整えて、ゾーンに入ると、私たちは逸見の兵と衝突した。

 私は太刀で、襲い掛かる敵兵を斬り捨て、吉清もゾーンに入って、俊敏な動きで敵兵の武器を奪い、敵兵に隙が出来た時に、すかさず近衛殿が追撃していき、槍で返り討ちにしていく。


「ここを突破すんぞっ!!! お前らぁあああああっ!!!」

 

 猪助が率いる朝倉の兵は、昨日から変わらず勢いがあり、逸見の兵の中に切り込んでいき、朝倉家の足軽は、川底にある大きめな石を、敵兵に当てていき、倒していく。朝倉家の猛攻により、逸見軍は崩れ始めると、逸見軍は残された兵で、撤退を始めた。


 このまま深追いをすれば、一気に逸見軍を壊滅出来て、逸見駿河守を討ち取れるだろう。けど今は、細川軍を壊滅するのが目的じゃない。三好長慶の言葉を、細川晴元に伝える事だ。


「新入りっ!! 向こうの三好側も、このまま突破しそうだぞっ!! 深追いするかっ!?」


 猪助にそう言われると、私も周りの状況を、改めて確認した。少し離れた場所で衝突していた、足利、松永軍も、じりじりと細川軍を追い詰め、向こう岸に辿り着きそうになっていた。


「ここは、無効と息を合わせますっ!!」


 このまま一気に追い詰め、籠城戦にした方が、細川軍も話を聞くと思い、私は追撃する事を決め、太刀を振り続けた。





 戦い続けていると、いつの間にか日も傾き始め、薄暗くなり始めていた。そんな中、ようやく足利、松永軍は、細川軍を追い込んで、細川軍の本陣のある、寺院を包囲して、両軍の睨み合いが続いた。


「兄上の意向は伝えたのか?」


 ジッとしていると、待機していた十河も川を渡って来たようで、十河一存本人が、私にそう尋ねてきた。


「まだです。無暗に攻めるのは違いますし、私一人で行けば、捕縛されるか、殺されます」

「使えんな。主が出来るのは、ただ武術だけのようだな」


 まだ伝言を伝えていない事を言うと、十河一存に、軽蔑する目で見られた。


「朝倉が動かないのは、兄上は見通している。臆病、越前一国だけで満足する、つまらん武将には、何も期待していない」


 朝倉家を侮辱した後、十河はこう言った。


「腑抜けている朝倉家に見せてやろう。こうしないと、戦乱を治めることは出来んとな」


 十河は持っていた法螺貝を吹いて、何かの合図をした。


「今宵、細川家を根絶やしにする」


 法螺貝の音が響いた後、私たち以外の軍は声を上げ、そして多くの兵士が駆けてくる、水音が聞こえ始めた。


「兄上は、感謝していた。朝倉が少数ながらも、細川家を追い込む姿に、いたく感心していた。正室を迎え入れた、親交がある細川に、和睦の意思を見せる伝令する使命を持たせれば、朝倉は士気を上げ、奮励に動くとな」


 私に、自分の腕を切り落とされた時の恨みを晴らしたように、清々しい顔をして、茫然とする朝倉家から離れていき、そして三好軍は、奇襲を始めた。


「……」


 火矢が放たれたのか、細川家が籠っている寺院に火が上がり始め、私たちはただ火が上がり、寺院の中から聞こえる悲鳴が、この先の人生で、耳にこびりつくような感じがして、私は気分が悪くなり、思い切り地面に吐瀉物を出し、その場から一歩も動くことが出来なくなってしまった。




 夜明けと同時に、寺院に放たれていた火が消えると、三好軍から勝鬨が上がった。どうやら、今回の戦いは三好、足利軍の勝利に終わった。


「……将軍様らしい、素晴らしい戦いだと思います」


 焼死体、寺院が全焼する前に運び出された首が、誰の者か確認するため、三好家は首実検を行っている中、その場に崩れ落ちている私に、義藤がやって来た。


「朝倉様に、褒めていただけるのは、とても光栄だと思います」

「将軍様は、何がしたいんですか?」


 私は、足利義藤が何がしたいのか、全く分からない。室町幕府、京の都を再興させたいなら、どうして三好家の言いなりになっているのか、私は理解できなかった。


「足利家を再興させ、再び権威を振るえるような、幕府を作り上げる事です」

「それなら、どうして三好家の残虐な行為を、容認出来るんですか?」


 和睦を望んでいた細川家の話を聞かず、一方的に攻め滅ぼした三好家。そして足利家も、三好家に言われるがままに、燃え盛る寺院に突撃し、細川家を殲滅する行動に参加していた。


「朝倉様。顔上げてくれませんか?」


 義藤に言われたとおりに、私は顔を上げ、義藤の顔を見ると、義藤は瞼が腫れ、そして口から血が垂れた跡があった。


「六郎様は、父上と仲が良かった。だから助け出したかった。三好様に加担し、利害一致で攻めるように見せて、六郎様を助け出そうとしました。ですが、出来ませんでした……。私は人生経験が浅い分、一刻も早く、京を奪還したかったから、強き者に付いたのが失敗し、古くから管領に仕えていた細川家を見限ってしまった……。私は、父上とは違って、征夷大将軍として、相応しくありませんね……」


 義藤は、そう話してから、私の前に正座して、そして立派な鎧兜を脱ぎ捨てた。


「朝倉様……。介錯をお願い出来ますか……?」


 義藤は、そう言って微笑んでから、私の目の前で、脇差を自分の腹に突き刺し、切腹した。

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