第20話 茶会2

「ルーイ、それは、君が好きなナッツのタルトだよ。昔、それの取り合いで喧嘩したろう。今日のために作ってもらった」

「そう、でしたね」

ベルンハルトの言葉に、ルートヴィッヒの表情が緩んだ。


「ゲオルグ団長の報告は聞いたけど、新任副団長達の報告も聞きたいな」

ベルンハルトの言葉に答えたのはアルノルトだった。ゲオルグの墜落で、突然指揮を執ることになったアルノルトが、いかにして部隊を立て直したかという話に、ベルンハルトは感心した。


「若手ばかりの部隊で動揺したろう。指揮といっても君の同年代や、年上もいたろうに。団も違うのに、よくまとめたね」

「お褒めに預かり光栄です。最初にルートヴィッヒが、私に指揮をと叫んで周囲に知らせたからで、纏まってくれました」

「アルノルトならば指揮出来ると判断したので、声に出して言ったまでです」

「御前試合で、決勝でゲオルグ団長と手合わせしたお前の実力は皆知ってるから、従ったとおもうが」

「決勝でゲオルグ団長に負けていますから、自慢にはなりません。準決勝はあなたとでしたね」

実力の伯仲するアルノルトとルートヴィッヒの準決勝に、観客の多くは次世代の竜騎士団を背負う二人の実力を感じた。


「次は俺の勝ちだ」

「どうぞ。出来るのならばですが」

二人の気安い会話を、ベルンハルトは微笑んで聞いていた。


 ルートヴィッヒの思い切った行動には、ベルンハルトは苦笑した。

「まぁ、ルーイが思い切った行動をとるのは珍しくないからね。それにしても、トールも、手綱も何もなしで、君の思う通りに飛ぶとは。賢い上に、君が言う通り、人の言葉をわかっているのだろうね」


 南から来た隣国の竜が、ルートヴィッヒの後を勝手に付いて来たという話には、大笑いした。

「竜の身になってみたら、手綱や鞍を外してくれて、怪我の心配してくれたルーイに懐くに決まっているよ。好きにしろって言ったから、ルーイについて来ただけだよ」

「そうですか。私は、自由に飛んでいくと思ったのですが」

「雨風はしのげるし、食事もあるから、竜にとって人間と暮らすのも悪くないと思うけど。一時の君よりましな生活だ」

ゲオルグとアルノルトは顔を見合わせ、ルートヴィッヒは苦笑しただけだった。


「ルーイに懐いた竜はどうしたの」

「南方にいます。ここは彼らには寒すぎます」

「そうか、南の竜を見てみたかったな」

「乗せる竜騎士にもよるでしょうが、御前試合に参加することもあるでしょう。いずれその時に、ご覧いただけると思います」

「優秀な竜ということかな」

「おそらくは。国境を越えた部隊の竜ですから」

「では、その日を楽しみに待つとしよう。あと、報告書には、ルーイが何やら目立つものを持って帰ってきたという報告もあったけど」

「相手の使っていた武器です。大きな鎌です。おそらく人の首を一瞬ではねることができるでしょう。まだ試していませんが」

「あぁ、また刺客を相手に試してみると良いね」

アルノルトは茶をむせた。


「その予定です。ただ、大型ですので、室内では振り回せません。周囲に味方がいた場合、巻き込みかねません」

「屋外に誘い出さないといけないね」

「そのうち、湧いてでてきたときに、外へ誘導できたら、試せるのですが」

気の置けない兄弟二人の、血腥ちなまぐさい会話を聞きながら、ゲオルグとアルノルトは軽食に意識を集中することにした。


「ところで、報告にルーイが竜舎で倒れたってあったんだけど。何があったのかな」


 ルートヴィッヒの返事が一瞬遅れた。

「少し、疲れただけ」

「ルーイに聞いてないよ。ごまかすからね。アルノルトに聞きたい」


 ルートヴィッヒがすさまじい目で睨んできたが、アルノルトは無視した。

「悪いな、ルートヴィッヒ。私の忠誠は陛下に捧げている」


 アルノルトの言葉に、ルートヴィッヒはますます視線を鋭くした。

「すまないね。ルートヴィッヒは、いつもいつも常にずっと自分のことを、後回しにするからね」

「そうですね」

「全くです」


 それを皮切りに、見習いの時の話も含め、ルートヴィッヒの色々な話題が暴露されていった。ルートヴィッヒ一人がいたたまれなさそうに座り、他三人は和気あいあいと歓談した。


「ルーイ、少しずつ、あるべき姿に戻していこう。王都竜騎士団団長ゲオルグ、南方竜騎士団副団長アルノルト、私たちに、協力してほしい。己の利益のみを追求する貴族から、この国を取り戻す。私とルートヴィッヒに協力してほしい」

「はい」

「勿論です」

別れ際のベルンハルトの言葉を、アルノルトは後に何度も思い出した。


<第三章 完>

第四章は本編第四章公開時に投稿予定です。

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