第19話 茶会1
王都竜騎士団副団長にルートヴィッヒを、南方竜騎士団副団長にアルノルトを任命する式典は滞りなく行われた。
ベルンハルト国王は常に笑みを絶やさず、ルートヴィッヒも微笑んでいた。
王都竜騎士副団長となったルートヴィッヒ、南方竜騎士団副団長となったアルノルト、王都竜騎士団団長のゲオルグは、国王から私的な茶会の誘いを受けた。負傷しているゲオルグが座って報告できるようにしたいとの一言も添えられていた。
私的な茶会だというとおり、王宮の一室にテーブルが用意され、侍従も侍女も下げられた。国王の隣には、時計回りにルートヴィッヒ、アルノルト、ゲオルグが座った。
「気軽に食べながら報告してくれ。そのために茶会にしたし、人払いもした」
ベルンハルトは自らの言葉通り、容易された軽食をつまみ、茶を飲みながら報告をうけた。
ゲオルグは、一息ついたとき、正面に座るルートヴィッヒが、一切何も手をつけようとしていないのが見えた。ベルンハルトも気づいたのだろう。
「おや、ルーイ、食べないなら私の皿と交換してくれ」
ベルンハルトはルートヴィッヒの返事を待たずに、自分の皿と隣に座るルートヴィッヒの皿を交換してしまった。
「いけない、また、君が倒れる」
叫ぶようにルートヴイッヒは言うと、立ち上がり、ベルンハルトの手を掴んだ。
「大丈夫だよ。もう、大丈夫だよ。ルーイ、昔とは違う」
ベルンハルトがルートヴィッヒの前に置いた皿の料理は、すべてが少しずつ減っていた。まるで毒見をしたかのようだった。
「大丈夫だ。昔とは違う。これからもきっと、いろいろあるだろう。だけど、少しずつ変わっている。だから、大丈夫だ」
ルートヴィッヒの前に置かれた毒見をしたような皿と、皿を取り換えるという行為が、毒を盛られるのが日常だった彼らの日々を思わせた。
隣に座っているアルノルトには、ルートヴィッヒの手が微かに震えていることがわかった。
ルートヴィッヒは、毒を盛られた人を介抱したことがあるといった。それが誰だったのか、推測が確信に代わり、アルノルトは緊張したまま茶を飲んだ。
「あ」
思わず漏らした声に、全員がアルノルトを見た。
「いや、すみません。間違えました」
アルノルトは、間違えてルートヴィッヒの茶を飲んでしまった。おまけに飲み干してしまった。自分の分を空にしたことを忘れていた。
「あぁ、人払いしているから、すまないね、茶のお代わりはそこだよ」
落ち着き払ったベルンハルトの穏やかな声に、アルノルトはようやく落ち着いた。
「恐れ入ります」
アルノルトは、全員に茶を注いだ。
「すまん、ルートヴィッヒ。ほら、茶くらい飲んだらどうだ」
そっとルートヴィッヒの肩に触れ、椅子に座らせた。
「ほら、落ち着け、少し飲め」
アルノルトの言葉に、ルートヴィッヒはゆっくりと茶を口にした。ベルンハルトは、そんなルートヴィッヒを見ていた。
「落ち着いたか」
ルートヴィッヒが頷いた。
「少し食べるか。上等だし、旨そうだ」
ゲオルグの声に、ルートヴィッヒは頷いた。そっとカトラリーを手に取り、ルートウィッヒが一口食べた。ベルンハルトが微笑んだ。式典のときとは違う笑顔だった。
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