第10話 南方竜騎士団幹部と若手たち
騎士団同士、とくに若手の合同訓練は珍しいものではない。今回、ゲオルグが王都竜騎士団と南方竜騎士団を率いた。南に来た目的は、合同訓練だけではなかった。結果、狙い通り病巣が見えたが、残念だ。ゲオルグは足の痛みだけでなく、頭にまで痛みを感じた。
ゲオルグしか乗せないハーゲスが、ルートヴィッヒに二度も手綱を握らせたというのには驚いた。あの暴れ竜と呼ばれていたトールが、ルートヴィッヒを乗せて飛ぶのだ。ルートヴィッヒならば、ハーゲスも乗せるだろうとも思えた。
南方から付いて来た竜は五頭だという。一騎打ちに名を借りた奇襲で、ゲオルグは左から攻めてきた一騎は倒した。右から攻めてきた一騎はルートヴィッヒが倒した。残り三騎は王都竜騎士団団長の兜をかぶったゲオルグではない竜騎士が倒したのだ。うち一人は敵の団長だ。
何があったかは明白だった。それだけの腕をもつ者も一人しかいない。ルートヴィッヒは、ゲオルグの傷の手当てをした後、ゲオルグの兜をかぶり、ハーゲスに乗り、トールを何らかの方法で自在に操り、相手を翻弄し、追い払ったのだ。
他の者の報告は、アルノルトの情報と大差なかった。一部の者が、自らのわずかな武功を付け加え、地上にとどまったハインリッヒに皮肉を言い、勝手な行動をとったとルートヴィッヒを非難した。
大多数がルートヴィッヒを弁護した。ルートヴィッヒの機転がなければ死んでいたと主張し、ルートヴィッヒを一方的に罵倒した南方竜騎士団団長は、愚かだと抗議した。
ルートヴィッヒを一方的に軍規違反と詰った南方竜騎士団団長に、若手達は抗議した。先鋒はルートヴィッヒの同期であるハインリッヒだという報告に少し安心した。当然、南方竜騎士団に所属するアルノルトも加わる。
南方竜騎士団団長と一部の幹部と、アルノルトを旗頭にした南方竜騎士団の若手とハインリッヒを中心とした王都竜騎士団の若手が、歪み合っている状態だという。争点であるはずのルートヴィッヒに、アルノルトはゲオルグの看病を任せ、喧騒から遠ざけていた。
人間の問題だけでなく、竜の問題もあった。
「ルートヴィッヒらしいな」
今は解決しているという前置きのあと、聞かされた話にゲオルグは溜息を吐いた。ゲオルグの言葉に、ハインリッヒとアルノルトは苦笑した。
南方騎士団の団長は、竜丁達に、新たに現れた竜の世話をしないようにと命じた。竜丁達も、自分達の騎士団長に逆らってまで突然現れた竜の世話をすることは出来ない。竜達も周囲に馴染もうとせず、ルートヴィッヒ以外、誰も寄せつけなかった。
元からトールとハーゲスも、他人を嫌い、近づけようとしない。そのため、七頭を最初はルートヴィッヒが一人で世話をした。ほぼ、付きっ切りでゲオルグの看病もしていたルートヴィッヒは倒れた。ハインリッヒとアルノルトが竜を説得し、押しかけてきた五頭は、今は、無闇矢鱈と威嚇はしなくなり、誰でも世話を出来るようになったという。
アルノルトの左足はいまだ痛みを持っていた。薬師には、歩けるようになるだろうが、元通りに動けるようにはならないことを、覚悟しろと言われた。負傷直後の初期の治療がよかったから、切り落とさずに済んだと言われた。
初期の治療をしたのも、誰かわかっている。
「無茶な奴だ」
腕はたつ。頭もよい。騎竜のトールとの相性も最高だ。だからといって、一騎と一頭で陣形をきちんと組んでいる相手に突っ込むものではない。
渦中のルートヴィッヒは、ゲオルグの看病をし、トールとハーゲスの世話をしていた。アルノルト達若手は、そんなルートヴィッヒの世話は自分達がしているから、ご安心くださいとゲオルグに大真面目に言うものだから笑った。
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