第11話 若手の企み1

 南方竜騎士団幹部には内密に、若手達は一室に集まった。


 合同訓練開始時、南方竜騎士団と王都竜騎士団は分かれて行動していた。小規模とはいえ他国と衝突し共に戦ったことで、仲間意識が生まれた。今は誰が隣かなども気にせず、入り混じって座っていた。その中心に、少し痩せたルートヴィッヒがいた。


「倒れた時に比べれば、だいぶましになったな」

「お気遣いいただきましてありがとうございます」

同輩である竜騎士に対して、ルートヴィッヒは言葉遣いも態度も過度に丁重だ。南方竜騎士団の若手の中には、当初それを余所余所しいと嫌うものもいたが、それも過去のことだ。


「突然お集まりいただきまして申し訳ありません。気になることがいくつかあるのです。一つは、亡くなった彼らの遺体です。国境を越えてやってきた者たちが、死者を葬るために戻ってくるとは思えません。葬られず放置されているのではないでしょうか」

「まぁ、そうだろうな」

「部隊の長と数名の竜騎士を喪ったんだ。再度国境越えをするなら、相応の準備がいる」

「敵国の竜騎士ではあるが、遺体が放置されているというのは、あまりに惨めだ。敵国とはいえ、われわれは彼らに敬意を払うべきだ」

一人の竜騎士がそういうと、賛同する声がそこかしこから上がった。


「彼らを葬るということに、皆さまのご賛同をいただきありがとうございます。他にも、遺品の回収をしたいのです」

「遺品の回収を? 何のために。売るのか」

敵の武器や防具を回収し、換金するのは珍しいことではない。ただ、すでに日数を経ており、遺体の腐乱が始まっているはずだ。給料の比較的良い竜騎士が、小遣い稼ぎのためにするようなことではなかった。


「いいえ。南の隣国との関係は良好とは言えません。ベルンハルト国王陛下は戦を望まれない。そうなるといずれ、友好関係を築くために使者を送ることになるでしょう。その際の手土産に使えます。彼らの墓もあったほうがよい。無断で侵入し、一騎打ちを申し込みながら奇襲するような相手であっても、わが国が丁重に扱ったという証拠になります。交渉の際、心理的な優位に立つことができます。外交を優位に進める一手になるでしょう」


 王族の血を引くルートヴィッヒならではの言葉に、竜騎士達は顔を見合わせた。

「ゲオルグ団長や、貴族達に説明するには、先程のように言う必要があります」

含みを持たせたルートヴィッヒの言葉に数人が気づいた。


「個人的なことを言えば、あの大鎌が欲しいですね。友好的な外交関係が成立したら彼の親族に返却いたしますが、一度は使って見たいものです」

数人分の返り血を浴びたルートヴィッヒが平然としていたことを思い出した者もいた。ルートヴィッヒが大鎌を振り、首を飛ばす様を想像した者は気分が悪くなった。


「お前な」

真っ先に反応したのはアルノルトだった。

「小回りが効かない大鎌を、なぜ国境を越えてまで持ってきたのか知りたいのですよ。それなりに理由はあるはずです。首を飛ばすことはできるでしょうが」

「その趣味は理解できん」

「趣味ではありません。相手が使う武器のことは把握しておく必要があります。いつどこからどのように攻撃してくるかわかっていたほうが、防ぎやすい」


 ルートヴィッヒは左手を広げた。指の付け根から数本の金属の棘が伸びていた。

「刺客の暗器です。嵌めておけば、相手の手首を掴むか、触れるだけでも傷を負わせることが出来ますから便利です。刺客は毒を塗るのですが、それがなくても相手を怯ませるには十分です」

部屋が静まり返った。


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