第9話 ルートヴィッヒの報告2

 本当に嬉しそうに笑うルートヴィッヒに、表情が増えたなと、ゲオルグは思った。

「話題を変えてもいいですか」

「かまわん。言ってみろ」

無駄話をしないルートヴィッヒが、わざわざ言おうとするならばよほどのことだ。


「敵の団長が使っていた武器ですが、奇妙だとは思われませんでしたか。あれは小回りが利かないはずです。一騎打ちでは使えますが、それ以外では無用の長物かと思われます」

相手の男は巨大な鎌状の武器を振り回していた。一騎打ちのために国境をこえてきたということなのだろうか。


「今回の訓練の情報ですが、誰にどの程度まで知らせていたか、教えていただけますか」

「どういうことだ」

「王都竜騎士団団長が、南方竜騎士団の視察のため、若手を連れてくる。ここまでは、隣国も分かっていたはずです。しかし、あの日、両竜騎士団の若手だけを連れて、王都竜騎士団団長が訓練するという情報はどうですか。飛行経路の予定を団長は周辺に知らせていましたか」

「何が言いたい」


 ルートヴィッヒはしばらく逡巡し、ゲオルグの目を見た。

「二つの竜騎士団の若手のみで構成される部隊というのは、未熟であり互いを知らず、協調した戦いが困難な部隊です。それを率いていたのは、王都竜騎士団団長です。中間となる世代はいませんでした。彼らは、その部隊に一騎打ちを申し入れました。団長には、一騎打ちの申し出を断るという選択肢はありませんでした。違いますか」


 若手の混成部隊が戦ったところで、国境をわざわざ超えてくるような猛者の集まる部隊に勝てるわけがない。一騎打ちで決着をつけられるのであれば、それが手っ取り早いとゲオルグも考えた。一騎打ちを受けた理由の一つはそれだった。


 ルートヴィッヒの言葉通りであれば、若手の混成部隊を率いるゲオルグに、断ることの出来ない一騎打ちを申し込み、左右からの不意打ちで殺すために国境を越えてきたということになる。

「それは、若手は知っているのか」

「はい。まだ一部ですが」


 毎晩、ルートヴィッヒはゲオルグの部屋の床で眠っていた。数日前から、アルノルト達若手の一部が、ルートヴィッヒを寝台に押し込むためと言って現れ、順にゲオルグの部屋で仮眠をとるようになった。

「夜、私の部屋で若手が順に仮眠をとっているのは」

「そのためです」

「食事は、必ずお前が持ってくるが」

「毒見はしていますのでご安心ください」


 庶子とはいえ、国王陛下の異母兄に毒見をしてもらうなど恐れ多い。万が一ルートヴィッヒの身に何かあったらと、心配する側のことも理解して欲しい。だが、気長に待つしかなさそうだ。

「毒見でお前が倒れたら、私は悲しい」

「大抵のものは、味でわかります。飲み込まなければ問題ありません」

やはりわかっていないルートヴィッヒにゲオルグは苦笑した。アルノルトは本当に面倒見が良い。


 今すぐにとはいわないが、いつかわかる日が来て欲しい。ゲオルグが焦ったところで、その日が早く訪れるわけではないのだ。


 ゲオルグは、ルートヴィッヒの頭の中を占めている出来事に、付き合ってやることにした。

「誰を疑っている」

「計画を邪魔され、見破られることを恐れたので、私に対して攻撃的にふるまわれたのだと思います。到着するなり、軍規違反と詰られました。伝令は重傷者がいるとだけ伝えたことは確認しています。重傷者が誰かも含め、事件の詳細は報告していません。報告する前に、我々が到着したそうです」


 南方竜騎士団団長は、若手の合同部隊におこったことの詳細を、部隊から報告を受ける前に知っていたのではないか。ルートヴィッヒが明言を避けたが、言わんとすることは明白だった。ゲオルグが疑っていたことでもある。


 世の中には、敵に回さないほうがいい男がいる。逆に味方であれば心強い。あまり無理はさせたくなかったが、こういう時に、ルートヴィッヒに頼らざるを得ないのも事実だ。


「証拠というものは重要だ」

「はい」

「推測でものを言ってはいけない」

「はい」

「そろそろお前もしっかり休め。夜はあまり無理をしないように」

「はい」

夜と口にしたゲオルグの意図を察したのだろう。ルートヴィッヒの口角がつり上がった。

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