第3話 事件の始まり
事実を伝えるというのは、意外と難しいことだ。特に、そこに感情が入り込むと正確性を失っていく。部下から順番に報告を聞いたゲオルグは、報告と感想と意見の違いもわからない部下の多さに頭が痛くなった。
あの場で何があったかを、正確に把握していた者は数名しかいなかった。幸いなのは、その数名が、事実だけを伝えることができる者であったことだ。もっとも、そういう能力があるから、事態の把握ができていたのだろうが。
あの日、王都竜騎士団と南方竜騎士団の若手の合同訓練の指揮を執り、ゲオルグは国境近くを飛んでいた。南の隣国への威嚇の意味もあった。そこへ、南の隣国の竜騎士団が国境を越えてやってきて、睨み合いとなった。南から代表者同士の一騎打ちが申し込まれた。
ルートヴィッヒは小競り合いから戦争へ発展することもあるからと、一騎打ちに反対した。怖じ気づいた、弱腰だと、ルートヴィッヒを責める者が多かった。周囲に罵倒されても、ルートヴィッヒは己の意見を変えなかった。一時期王族として教育をうけていたルートヴィッヒの意見の重みを理解するべきだったと、今になっては思う。
国境侵犯した側に非がある以上、一騎打ちの申し出など受ける必要はないというハインリッヒの意見や、外交問題になるとルートヴィッヒが言うなら、辞めておいた方がいいというアルノルトの意見を聞いても良かった。
冷静になった今は、彼らの挑発に乗るべきではなかったと思う。正当性は自国領内にいたゲオルグ達にあった。問答無用で追い出せばよかったのだ。若手ばかりの部隊で、能力に不安があった。ゲオルグ一人で片をつければ良いと、一騎打ちを選んでしまった。
結果がこれだ。この左足だ。彼らは、一騎打ちを申し込んでおきながら、ゲオルグに奇襲をかけてきたのだ。唯一、気づいて動いたのはルートヴィッヒだった。
「奇襲、左、来ます」
両側から突っ込んできたが、ルートヴィッヒは、左を指摘したのみだった。右からの奇襲はルートヴィッヒが仕留めるつもりだったのだろうし、実際に仕留めた。
残念ながら、正面と左からの攻撃を完全には避けきれず、ゲオルグは左の大腿部に負傷し、体当たりをうけた騎竜ハーゲスとともに墜落した。幸い、地面に叩きつけられる前にハーゲスが体勢を立て直し、着陸できたらしい。おかげで墜落による死亡は免れることができたから、今日、ここにゲオルグはいる。
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