第13話 御前試合

 春、年に一度の御前試合、リヒャルトは発表された勝ち抜き戦の組み合わせ表に顔を顰めた。何とかしてルートヴィッヒと試合をしたいと思っていたが、ことはそう簡単にはいかなそうだった。


 昨年、史上最年少で王都竜騎士団副団長となったルートヴィッヒは、勝ち抜き戦の後半まで登場しない。リヒャルトはそこまで勝たないといけない。リヒャルトの前には、ハインリッヒが立ちはだかる組み合わせになっていた。


 ここ数年、御前試合は王都竜騎士団の竜騎士だけが勝ち上がっていく。役職の有無にかかわらず、負け知らずだ。各竜騎士団の団長や副団長達が登場するころには、王都竜騎士団所属の竜騎士しかいない状態が続いている。数年来の伝統を打ち破らなければ、ルートヴィッヒまでたどり着けないのだ。あの日のハインリッヒの身のこなしから、彼も腕が立つことは想像できた。


「久しぶりだな」

王都竜騎士団に舞い戻ったヨハンが声をかけてきた。

「お元気そうで何よりです」

「リヒャルト、勘当されて爵位なんぞない俺を相手にその言葉遣いはないぞ」

ヨハンには相変わらず、勘当されたという悲壮感がないままだ。というより嬉しそうだ。


「まぁ、努力しま、努力するけど、今日、出ないんですか」

勝ち抜き戦にはヨハンの名前はなかった。

「あぁ、王都竜騎士団は、年次や実力が近い場合は、一人だけって方針になった。俺はハインリッヒに負けたからな」

「え」

東方竜騎士団副団長候補だったヨハンが、あっさり負けを認めたのは意外だった。

「うーん。あいつのほうが、やっぱなぁ。副団長についていこうって必死だからな」

「はぁ」

今一つ意味の分からないヨハンの発言に、リヒャルトはとりあえず相槌を打っておいた。


「まぁ、がんばれよ。ハインリッヒは副団長と試合することしか考えてないからな。本気で蹴散らしに来るぞ」

機嫌が良いヨハンの笑い声が不愉快だった。いくら相手が王都竜騎士団であっても、リヒャルトも腕に覚えはある。蹴散らされるつもりはなかった。


「ところで今回は、カールは来ていないのか」

ヨハンの言葉に、リヒャルトは肩を竦めた。


「前回、こちらで羽目を外しすぎたとかで、留守番です」

「羽目?」

「派手な手合わせをして」

「なるほどな。そりゃ仕方ない。まぁ、頑張れよ」

警備担当だからと、ヨハンは去っていった。



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