第11話 出発の朝
東方竜騎士団の出発のため竜が庭に集められていた。その傍らで、蝙蝠がどうしても残ると言い張っていた。
「俺のせいだ」
「かすり傷です。それはカール、君も同じです。君のせいではないことで、君が責任を感じる必要はありません」
左腕を三角巾で吊ったルートヴィッヒがいた。
「でも、俺がいたせいで、避けきれなかったじゃないか」
「些細なことです。少なくとも昨日一日ゆっくり休ませてもらいました。それで十分です。君は帰りなさい」
「俺、ここの所属がいい」
「王都には、君の前職の知り合いが多すぎます。距離をとった方がいい」
「なら、今から全部、片付けてくる」
「無茶を言うものではありません。逆に敵が増えるだけです」
「全部叩き潰せばいいって言ったの誰だよ」
「若気の至りです。過去の自分の発言が悔やまれます」
「たまには殿、副団長と手合わせしたいよ。そうそうこっち来れないし」
「そうですね。御前試合くらいでしょうか。副団長、団長等幹部ともなれば、仕事で王都に来ることも増えるでしょうが」
ルートヴィッヒの言葉に、カールがようやく顔を上げた。
「そうか、その手があったか。団長、俺、じゃぁ副団長になる」
「どうやら、さらにご迷惑をかけるようなことを。焚きつけてしまい申し訳ありません」
機嫌よく張り切りだした蝙蝠と、それを見守るルートヴィッヒの話を聞いていた東方竜騎士団の団長は苦笑していた。
ルートヴィッヒと目があった
「昨日、いらしてくださったそうですね。ご挨拶できずに申し訳ありませんでした。竜を連れてこなければなりませんので、失礼します」
ルートヴィッヒは優雅な礼をし、リヒャルトが何か言う前に、竜舎の方に歩いて行ってしまった。その横をヤーコブが歩く。よく見ると、王都竜騎士団の竜騎士達は適当に散っているように見えて、全体を警戒できる位置に各自が立っていた。そのうちにルートヴィッヒが、ゲオルグ団長のハーゲスを連れて現れた。
「ここは竜丁はいないのか」
「いないよ」
思わず口をついて出た言葉に、返事があるとは思っていなかった。
「危ないからね」
そっくりな顔をした見習い竜騎士が二人立っていた。
「僕はペーター」
「僕はペテロ。双子だよ」
「東方竜騎士団の方、お帰りになられるのですから、ご自身の竜の元へ」
「あちらです」
人好きのする笑顔の二人だが、実質、帰れといっているのと同じだ。
「私は配属に関して、ゲオルグ団長に返事をさせていただく約束になっている」
来いといったのは、お前達じゃないのかといいたかった。
「覚悟がない人は要らない」
「そんな人でも、あの人は庇うからだめだ」
「僕らは竜騎士になるのが目標じゃない。あの人のために戦える力を手に入れるため竜騎士になるんだ」
「あなたとは覚悟が違う」
リヒャルトが何か言う前に、双子たちは名を呼ばれて走って行ってしまった。
王都上空を、東方竜騎士団は王都竜騎士団に警護されつつ飛んだ。王都を囲む城壁で別れを告げる。一人がいつまでたっても別れがたいようだった。
「ゲオルグ団長、殿下によろしく言っといてくれ、俺、副団長になってまた来るって言ってたって」
「伝言は預かるが、その呼び方を直せ。あいつは本気で嫌がっているだろうが」
「だって、俺みたいなのを、まともに扱ってくれるのって殿下だけだしさ。親愛の情だよ」
「本人が嫌がる名前で呼ぶのをやめてやれ。そんな口の利き方では、副団長になっても、部下がついてこないぞ」
「おんなじこと言われた。そんなことよりさぁ、無理させるなよ」
「放っておくと無理するからな。気を付けてはおく」
「俺、こっちがいい」
「標的が二人揃うのは良くないだろう。お前には悪いが無理だ。何事にも限界がある」
「俺に見てないところで死ぬなって言っといて」
「わかったわかった」
皮肉屋のカールらしからぬ態度だった。
「リヒャルト、君は東へ帰るということでよいね。東でも頑張りなさい。ご家族にはたまには手紙でも書くように。心配しておられたのだから」
ゲオルグ団長は笑顔だった。その笑顔に、リヒャルトは言葉にできなかった返事をするため口を開いた。
「いえ、あの」
「止めておけ」
低い声がした。ハインリッヒだった。
「迷っているだろう。止めておけ。覚悟が無い者は来るな」
リヒャルトは結局、何も言えなかった。
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