第10話 リヒャルトと団長達
「失礼します。王都竜騎士団竜騎士ヤーコブ、東方竜騎士団竜騎士リヒャルト殿をお連れしました」
「入れ」
ヤーコブが戸を開け、リヒャルトを先に通した。
「ハインリッヒとイグナーツも一緒に行動していると報告を受けたが、二人はどうした」
「いろいろありまして、二人とも過度に感情的になったため、別行動です」
ヤーコブの言葉に、団長達は顔を見合わせた。
「まぁ、二人の話は後で聞こう。リヒャルト、家ではご家族と過ごせたか」
「はい」
「それはよかった」
ゲオルグは微笑んだ。
「東方竜騎士団は明日早朝出発する。用意しておけ」
東方竜騎士団団長は事務的に伝えただけだった。
「あの、昨日お話いただいた私の配属に関しての返答の期限は、出発の朝までということでしょうか」
リヒャルトは、昨日、ほぼ決まりかけていたように聞かされた話が、無視されているように感じた。
「そうだな。王都に在住されるご家族、具体的には君の父君の強いご希望があった。ただ、現在、王都竜騎士団が最も危険である以上、軽々しく君を受け入れるわけにもいかない。よって君の実力を評価させてもらった。私としてはもう少しと思う。だが、王都竜騎士団で実戦の経験を積むことができる状況だから問題ないという意見が多かった。君が希望するのであれば配属を変更する方針だ。ただ、君がそれなりの覚悟をもって決めてもらう必要がある。最近、ここはより危険になっている」
ゲオルグの目が鋭くなった
「東方竜騎士団としては、君にこのまま東方に在籍してもらいたい。だが、君が王都竜騎士団への配属を望むのであれば、引き留めようとまでは思わない」
東方竜騎士団には、リヒャルトの同世代の竜騎士は複数いる。一人抜けたくらいで、手薄になる心配はない。
「王都竜騎士団の任務の一つに、要人の警護がある。他より危険な場に立つことが多い。その要人の一人が王都竜騎士団の一員でもあるため、危険だ。そこをよく考え、明日の出発までに王都竜騎士団への配置転換をどうするかを決めて私に伝えてくれたらよい。今日は帰りなさい。少し冷静になって決めることだ。今、王都竜騎士団の竜騎士達は、気が立っている。君も影響されるだろう。判断は冷静な状態ですべきだ。返事は明日聞こう。今日は下がりなさい」
「はい」
ヤーコブに連れられ、リヒャルトは外に出た。
「私は一応は貴族だが、数代前に没落した。私の場合は好きにしろと言われた。家族も私も、ここの危険を承知でここにいる。好きにさせてくれる家族は貴重だ。君の父上は、ここの危険性をご存じではないだろう。だから、君が決めるべきだろうね。門まで案内する。ちょっといろいろあった後、全員が神経質になっている」
ヤーコブが指した地面に、巨大な染みのようなものがあった。
「今回は、あれは、仲間のものじゃない。だが、仲間のものだったこともある。君がここにきたら、あれは君のものとなるかもしれない。いずれ私のものとなるかもしれない」
血痕だった。
翌朝、リヒャルトは、王宮に向かっていた。
昨夜、父からも話を聞いた。突然家を飛び出し、行方不明となっていた間、どれほど父や家族が自分を心配していたかを知った。王都竜騎士団へ押しかけたという父の暴走も、一度も連絡しなかった自分を心配してのことだと思うと、責めることもできなかった。
王宮に出入りする商人である父から、あくまで王宮の噂として、ルートヴィッヒ副団長の話も聞かされた。噂とは言え、優雅な身のこなしと、丁寧な口調からは全く想像もつかない、壮絶な日々を過ごしていたらしいことに驚いた。王子が、命を狙われていたなど知らなかった。だが、昨日の彼らの様子では、今もそれが続いているのではないだろうか。
「誠心誠意お仕えするように」
という父の言葉には少し笑ってしまった。末の弟を肩車してくれたルートヴィッヒは、軽傷だと言われたが、会って話をしたかった。
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