第9話 部外者2
「勝手なのはお前だ」
ハインリッヒが、詰め寄ってきた。そのハインリッヒをイグナーツは押しのけ、リヒャルトの眼前に立った。
「お前の親父が怒鳴り込んできた時点で、国王陛下の剣と盾である王都竜騎士団への無礼として対処する方法もあった。止めたのはルートヴィッヒだ。父親が息子を心配するあまり、行動が行き過ぎただけだ。寛大な対処をと団長に言って、お前の親父の無礼を見逃すようにって進言したんだよ」
今度は、ハインリッヒがイグナーツの肩を掴み、無理やりリヒャルトとの間に距離を開けた。
「確かに、彼も我々も、君の知らないところで色々関わった。関わらなければ、最悪どうなった。例えば君のお父上だ。王都竜騎士団、国王陛下の剣と盾である我々への反逆罪は、国王陛下への反逆にも等しい。王都竜騎士団の器物破損もある。君の父上が、反逆罪の刑をうけたら、君も竜騎士であり続けることは難しい。ほぼ無理だ。よほどの功績を立てなければ、あり得ない」
イグナーツを引き離してくれたハインリッヒだが、彼の内にも怒りはあることが明白だった。
「昨日会った君の弟は竜騎士になりたい、騎士になりたいと、可愛らしかったが、彼の夢も叶わない。国王陛下へ反逆した男の息子になるのだから。国王陛下への忠誠が、我々竜騎士にも騎士にも最重要と教わったはずだが」
昨日、ミヒャエルは、ルートヴィッヒの竜に触らせてもらったと家中の人に自慢していた。
「あいつはなぁ、お前の父親の反逆罪を不問にし、次にお前の父親が、お前を大事に思うあまり同じ過ちを犯さないように、手を打つため、いくつか布石を打っただけだ。それもわからねぇ馬鹿は、要らねぇ。とっとと東へ帰れ」
イグナーツが顎をしゃくった。
「イグナーツ、落ち着け。ハインリッヒも頭を冷やせ」
ヤーコブだけが、冷静なようだった。
「落ち着くか、俺ちょっと先に行く」
大股でイグナーツは歩き去っていった。イグナーツのあとにハインリッヒも続いた。
「ハインリッヒ、お前も落ち着け」
「落ち着きたいが、彼が、団長を説得していた場に同席していた。聞いていたから無理だ」
「何を」
「お前な、用心棒連れてきて王都竜騎士団の敷地で暴れたお前の親父が不問ってな、普通じゃねぇってことにいい加減、わかんねぇのか」
先に行ったはずのイグナーツに、振り返って怒鳴られ、ようやくリヒャルトは父が仕出かしたことの重大さに気づいた。国王陛下の件と盾と言われる王都竜騎士団への狼藉だ。父の命も、父が育てた商会も一瞬で消し飛ぶような大罪だ。
「すまない。全員、少し気が立っているんだ。私も含めてね。不快なことを言って申し訳ない。とにかく団長のところに行こう。君はもう少し、事情を知るべきだ」
ヤーコブに促されリヒャルトは歩いた。
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