第8話 部外者1

 ハインリッヒ達に、絶対に口外するなと言われ、リヒャルトはようやく部屋に案内された。戸を開けると、蝙蝠が寝台に横たわる誰かに付き添っているのが見えた。視線だけで出て行けと脅され、リヒャルトは、後ずさった。


 部屋の外に蝙蝠が出てきた。

「お前は関係ない。帰れ」

「何」

「俺のせいだ。お前は関係ない。お前は俺と違ってあいつの昔馴染みじゃない。王都竜騎士団の所属でもない。関係ないお前が知る必要はない。帰れ」

「蝙蝠、そこまで言う必要は」

「関わる覚悟はないだろう。出ていけ。俺は関わりたくても関われない。お前は関わる気がないくせに興味だけだ。来るんじゃねぇ。やっと寝かせた。起こすな」

それだけ言うと、蝙蝠は部屋の中に戻っていった。


 ハインリッヒが苦笑した。

「すまない。先ほど、薬師が薬で眠らせたところらしい。間が悪かった。蝙蝠の態度から君が推測したより、彼ははるかに軽症だ。蝙蝠が一番近くにいたから責任を感じているのだろう」


「軽症だからと、動き回ろうとするから、無理やり寝かせたくらいだ。だが、蝙蝠の言うことにも一理ある。君をここへ連れて来た我々が軽率だった。謝罪する。東方竜騎士団の君がかかわる必要はない。明日出発だろう。王都にいるご家族と過ごしたほうがいい。ただ、この件で出発が早まるかもしれないから、東方の団長に確認しておいてくれ」


「ゲオルグ団長とおられるはずだ。案内しよう」


 ハインリッヒの言葉に、イグナーツとヤーコブが続いた。王都竜騎士団の竜騎士達は、丁寧だがやや強引にリヒャルトを扉から引き離した。


「俺は関係ないってか」

リヒャルトの言葉にも、彼らは表情を変えなかった。


「関係ない。事実だ」

「君は東方竜騎士団所属、明日出発して帰る。王都竜騎士団に属する竜騎士の一人に、君がかかわる必要はない」

「実際、帰れば一切関係ないだろう。まぁ、我々が全滅した場合、他から竜騎士を集めざるを得ない。その場合は関係が生じるだろうが」

三人が壁のようになり、リヒャルトを兵舎の外に誘導するように歩を進めてきた。


「関係ない、関わるなというなら、なんで俺に関わってきたんだ」

リヒャルトの言葉に、イグナーツが鼻で笑った。


「最初に関わってきたのは、お前の親父だ。息子の勝手を何とかしろと言って、商品の納入を装って、用心棒にもならない連中を連れて怒鳴り込んできた。こっちからしたら訳の分からないことで怒鳴るわ、暴れるわ、迷惑した。喚き散らすお前の親父を宥めて、事情を聞き出したのは副団長だ。少しは感謝しろよ」


「そんな、親父がそんなこと」

唖然としたリヒャルトに、イグナーツは鼻で笑っただけだった。


「ゲオルグ団長が、親には親、息子には息子の事情がある、話し合え、少なくとも息子の事情は聞いてやれ、生半可な覚悟では竜騎士にはなれない。と君のお父上に説明された。まずは親子で話し合うために、昨日、君はここへ来たはずだった」

「弟君が脱走してしまって、君は弟君を探しに部屋を出たため、話し合いの予定が、君の父上への説得になってしまったときいている。予定通りにはいかなかったが、家では話し合えたのではないか」

「少なくとも君には、ある程度の実力がある。仮に、君が、ご家族の住む王都竜騎士団への所属を願い出た場合も問題はない」

「あるいはお前の親父が、家族の住む王都で竜騎士をしろと言っても受け入れ可能。それを昨日確かめただけだ」


 三人は次々とリヒャルトに畳みかけてきた。割り込む間もない彼らの言葉に、リヒャルトは昨夜の腹立ちが思い出されてきた。


「なんで、人のいないところで勝手に」

思わず、昨日からの不満が口から零れ出た。

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