第7話 翌朝
翌朝、実家から宿舎に戻ったリヒャルトは、周囲を包む緊迫した空気に戸惑った。
「あぁ。リヒャルト、君は不在で幸運だった」
東方竜騎士団の泊まっている宿舎で、リヒャルトを出迎えた同僚の言葉には棘があった。
「何が言いたい」
「襲撃された。と言っても俺たちじゃない。ここに泊まるんじゃなかった。俺たちは、あの副団長に巻き込まれただけだよ。若造のくせに。死神ってのも当然だな」
リヒャルトは思わず相手を殴りかかっていた。
「なんだお前、いきなり」
何とか避けた同僚は避難がましい目をリヒャルトに向けてきた。
「知らん。お前が訳の分からんことを言うからだ。何があった、言え」
「夜、突然襲われた。蝙蝠が気づいて、俺たちはたたき起こされた。とはいえ、部屋に引っ込んでろと言われたがな。外で捕り物があったらしいが、俺は知らん。まったく、関係ないのに巻き込みやがって」
同僚の言葉にリヒャルトは唖然とした。竜騎士たるもの、そのような場で戦わずして恥ずかしくないのかと言いかけ、言葉を飲み込んだ。
「お前、巻き込まれてもないのに、文句言うのかよ」
「巻き込まれてたまるか。関係ない。実際今も、この建物から外に出るなと言われて軟禁だ。不当だ」
竜騎士として、戦う者として、あまりに情けない言葉だった。だが、リヒャルトはその場にいなかった以上、何も言うことはできない。
外に出ると、昨日とは違う雰囲気を放つ竜騎士達がいた。
「あぁ、君か。リヒャルトか。外を歩くなら、足元に気をつけろ。まだ何か落ちている可能性がある」
昨日、ハインリッヒと名乗った竜騎士だった。
「何があったのですか」
「刺客の襲撃だ。安心しろ。東方竜騎士団には問題となるような死傷者はいない。蝙蝠が数か所、擦り傷を負った程度だ。今は、仕掛けや、暗器が残っていないか確認しているところだ。不用意に歩くと危ないから、君は東方竜騎士団が使っている彼方の宿舎に戻ってくれ」
リヒャルトは周囲を見渡した。昨日、イグナーツと名乗った竜騎士が、周囲に指示を出しているのが見えた。現場で指揮をとってしかるべき、ルートヴィッヒがいなかった。擦り傷のはずの蝙蝠もいない。
「ルートヴィッヒ副団長はおられますか。お会いしたいのですが。昨日のお礼を申し上げたいのです」
ハインリッヒが苦笑した。
「君は頭もいいようだ。ヤーコブ!」
一人が振り返ったのが見えた。
「団長に、東方竜騎士団のリヒャルト殿が、副団長に会いたいと言っていると伝えてくれ」
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