第5話 リヒャルトとルートヴィッヒ2

 王都竜騎士団の竜騎士が二人近づいてきた。

「君はよい試合をした。私はハインリッヒ。彼、ルートヴィッヒ副団長の同期だ」

「俺はイグナーツ。俺もそう思うよ。副団長、お前との手合わせ、楽しそうだったからな。副団長、実戦経験ありすぎるから、勝てる奴はまずいない。勝敗は気にするな」

リヒャルトには、ハインリッヒの言葉は慰めにしか聞こえず、イグナーツの言葉は意外だった。


「え、庶子っていったけど、それでも王族だったら」

「あぁ、だから彼を疎んで殺そうとするものは多かった。彼と同期だったおかげで、私も実戦を経験することになって、かなり鍛えられた」

ハインリッヒは淡々とした言葉に、リヒャルトは首を傾げた。随分と血生臭い話だ。


「君は知らないのか。先ほど、ルートヴィッヒが嫌がった呼び名があったろう。蝙蝠のかつての仕事仲間の相当数をルートヴィッヒは片付けた。蝙蝠を生け捕りにしたのもルートヴィッヒだ」


 ぞっとした。リヒャルトの腕では、蝙蝠に全く太刀打ちできないことは分かっていた。蝙蝠は刺客だった過去を隠そうともしていない。刺客から足を洗った経緯も聞いていた。仲間と仕事にいったら、標的に蝙蝠以外全員が殺され、彼は生け捕りにされたと言っていた。標的はルートヴィッヒだったのだ。


「君の兄ちゃんは強いぞ。君の名前はミヒャエルだね。ミヒャエル、いっぱい練習しないと、兄ちゃんみたいになれないぞ」

ミヒャエルに話しかけるイグナーツの声が遠くに聞こえた。


 そのルートヴィッヒは団長達と父の話に加わっていた。姉と妹たちがルートヴィッヒに目が釘付けになっているのが腹立たしかった。父がルートヴィッヒの言葉に何度か頷き、それにルートヴィッヒが答え、団長達も何か言っていた。自分のことだろう。行こうと思ったら、ルートヴィッヒがやってきた。


「リヒャルト、団長達があなたにご用事があるとお呼びです」

優雅な仕草で先に立って歩くようにと、ルートヴィッヒに促された。優雅でも、蝙蝠の仲間を全滅させた男が後ろを歩いてくることに、恐ろしくなってきた。


 団長達と父との話し合いの結果を教えられた。リヒャルトが竜騎士になるということを父は了承してくれた。ただし、王都竜騎士団に所属してほしいと希望を伝えられた。王都には父の商会の本部がある。竜騎士になるというリヒャルトの希望を聞く代わり、息子を手元に置きたいという父の希望を聞いてはどうかと団長達には言われた。


 突然の配置転換の提案だ。強制はしない。返答まで数日という猶予を与えられた。だが、団長達の提案など、一介の竜騎士が断るのは、気が引ける。


 属する騎士団に拘りはなかった。だが、自ら選び取った場所から、父や団長達幹部の都合で引き離されることに反発を覚えた。


「あなたのお父上は、息子であるあなたに御商売に関わってほしいそうです。私は、お父上が御商売を拡大されるならば、東方竜騎士団に在籍したまま人の縁をつくってはどうかと提案させていただきました。残念ながら、私の提案は、お父上には受け入れてはいただけなかった。竜騎士になっただけでも心配だ。遠方にいるということも心配だ。心配事は一つにしてくれとおっしゃられた。お父上は君を大切に思っておられますね」


 ルートヴィッヒはそんな話をしながら王都竜騎士団の敷地を案内してくれた。

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