第4話 リヒャルトとルートヴィッヒ1

 ルートヴィッヒの型の指導は的確だった。踏み込みの甘さ、重心の位置、突きについて、一つ一つ指導された。


「兄ちゃん、すごい、かっこいい」

ミヒャエルは近寄ってきてしまうため、団長達に挟まれ左右の手を捕らえられていた。弟の素直な賛辞は嬉しいが気恥ずかしい。姉や妹たちも、目の前で繰り広げられる男たちの稽古に目を奪われているようだった。


 何度か組み合わせを変え、型の稽古を繰り返し、午後の稽古は終わった。

「兄ちゃん、すごい、俺にも教えて」

ミヒャエルがまとわりついて来た。

「お前、騎士か竜騎士にでもなるつもりか?だったらちゃんと稽古しないといけないけど、勉強もいるぞ。お前、勉強はどうだ」

「してるよ」

リヒャルトが家を出たときは、ようやく走り回れるようになったばかりだったのに、ミヒャエルもずいぶんと成長した。


「リヒャルトさん。お疲れ具合はいかがですか」

ルートヴィッヒが立っていた。

「まぁ、型だから、さほどは」

「では、一度、お手合わせを願えませんか」


 そういうと、ルートヴィッヒは左手に持っていた刃をつぶした剣を右手に持ち替えた。王都竜騎士団の竜騎士達が、瞬く間に壁際に移動した。

「あんた、右利き」

訓練中、ルートヴィッヒはずっと左で剣を握っていたはずだ。

「両方です」

「受けると言った覚えはないけど」

「東方の方々との手合わせの機会は、多くても年に数回です。ぜひお願いしたいのですが」


 リヒャルトも腕には自信はあった。先ほどのルートヴィッヒとカールの手合わせを見ていなければ、受けただろう。

「刺客を相手にするようなやり方はしません。いかがですか」


 リヒャルトに最初に剣を教えてくれたのは、父親の商会が雇った用心棒達だった。徐々に腕を上げたリヒャルトに、彼らは騎士になったらどうかと言い出した。冗談と思っていたら、彼らが父に何か言ったらしい。騎士を引退し、剣を教えているという男のところに通えと言われた。あのままだったら、騎士になっただろう。だが、竜に跨り空を飛ぶ竜騎士を見て、飛びたいと思った。まさか父が反対するとは思わなかった。竜騎士のほうが騎士よりも危険といわれるが、大差ない。そういっても受け入れられず、家を出た。


 庶子とはいえ、王族の末席でのうのうと生きていたであろう優雅な身のこなしの男に負けたくなかった。

「そうまで言うなら、受けてやるよ」

「では、よろしくお願いいたします」


 ルートヴィッヒとの手合わせは、確かに先ほどの、命の奪い合いを連想させる戦いとは違った。それでも勝者はルートヴィッヒだった。リヒャルトは勝てなかった。


 リヒャルトは、家を出てから、夜盗を相手に戦い、用心棒もして金を稼いで東へと旅をした。実戦での経験があるというのがリヒャルトの自信だった。東方竜騎士団でも、剣での試合では、リヒャルトは毎回上位の成績だ。それでも勝てないと思うと悔しかった。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

互いに礼をして手合わせは終わった。


「兄ちゃん、負けちゃったの」

「あー、仕方ねぇだろ、強いのはあっちだ」

ミヒャエルはリヒャルトにまとわりついて来た。ミヒャエルは久しぶりにリヒャルトに会って嬉しいのだろう。だが、弟の前で負けたリヒャルトは、素直になれなかった。

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