第3話 ルートヴィッヒと蝙蝠2

「えー、標的の中で最強ってんで、俺達、尊敬して呼んでたのに」

蝙蝠の声が静まり返った鍛錬場に響いた。


 死神殿下、かつて、庶子でありながら、王位継承権の第二位にあったルートヴィッヒを、そう呼ぶ者達がいた。彼の周囲で多数の死者が出たためだ。殺したのはルートヴィッヒを殺すために送り込まれた刺客達だ。だが、不吉な呼び名が広がるのに時間はかからなかった。


「不愉快です」

「わかったわかった。もう呼ばないように努力するけどさ、ついついなぁ」

ルートヴィッヒは黙ってカールを一瞥し、周囲を見た。乱れた着衣を整え、ゲオルグ団長の前に立った。


「ゲオルグ団長、お客人が来られてお話とのことでしたが、ご用件は終わられたのでしょうか」

軽く整えただけの汗と土埃で汚れた衣服のままでも、ルートヴィッヒには副団長としての威厳があった。


「あぁ、大体は終わった」

「午後の訓練はいかがされますか。本日は、東方竜騎士団は、新たに竜騎士に任命された方々を含め、全員この場におられます」

「またとない機会だ。合同での訓練としたいが、いかがですか」

「こちらも、王都まで来たかいがあるというもの。よろしくお願いしたい」

「ルートヴィッヒ副団長が指揮をとれ。私達は、お客人のお相手がある。御見学されたいそうだ」


 団長達の言葉に、長椅子が用意された。

「わかりました。定番ですが二人一組で型の稽古にしましょうか。ご見学の方にはその方が面白いでしょう」

「それでいい」


「では、二人一組に、余るものはいないか、東方竜騎士団の方のお相手は、王都竜騎士団が勤めるように、三年未満同士での組は禁止」

鋭い声で指示するルートヴィッヒにリヒャルトは一瞬見とれ、出遅れた。


「おや、あなたと私が余ってしまったようですね。お相手をお願いできますか」


 捕まった。リヒャルトはそうとしか思えなかった。王都竜騎士団副団長ルートヴィッヒ、史上最年少で副団長になった男が目の前にいた。


「えー、俺とやろうよ」

蝙蝠の声が助け船のように聞こえた。

「あなたを相手にすると、周囲を忘れそうで危険です」

この二人に稽古をさせたら、先程と同じことになるだろう。


「勝ち抜き戦しようぜー」

「それは団長が許可なさらないでしょう」

「当たり前だ。何のために先ほど止めたと思っている」

ゲオルグ団長の声で、蝙蝠の我儘は封じられた。

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