第19話

 ゆきふるよる に アラマキ が むらびと に なった !!


「アラマキが村人になったぞ」


 俺の朝は早い。

 昔から変わらない。


「いいんじゃないかな。称号が『勇者』でジョブが村人っていう間の抜けた感じがアラマキっぽいし」


 イコの朝は早い。

 昔から変わらない。


「勇者って全員あんな感じなのか」


「どうだろうね」


 村を囲むように煮汁を撒くのが朝の日課である。

 こうすることで薬草の畑を魂とした巨大な魔物に見立てることができている、らしい。


「朝飯は魔物の肉でいいか」


「うん、いいと思うよ。パンに挟んだら美味しいんじゃないかな」


 魔物に見立てた村に襲いかかってくる魔物がときどきいる。

 力量を測れない馬鹿はそのうち野垂れ死ぬだろうし俺に喰われたほうが幸せだろう。


「ギフトすら不要」


「いつ見ても惚れ惚れする一撃だね。首と胴が綺麗に別れたよ」


 鍬は非常に便利だ。

 鉄製の刃・木製の風呂・木製の柄から成っていて、俺は畑仕事をこれ一つで行っているし、首を刈り取るのに都合のいい形もしている。


「小型なら首刈りするだけだし楽なんだがな」


「文字通り朝飯前だもんね」


 『首刈り』は攻撃が頸部に当たると確実にクリティカル判定になるお手軽スキルだ。

 魔物の首を鍬で狙い続け、一撃で刈り取れるようになってもひたすら狙い続けていたら修得したスキルであり、大型の魔物などにも発動するのでギフトを使わないときは重宝している。


「村人から村長になったら称号が増えまくるんだが。今なんて『竜殺し』だし。料理してたら『フラメルの意思』と錬金術師のジョブが、龍の死骸を見てたら『ファウストの再来』まで手に入る始末。バグったのか?」


「バグってないよ。今まで取得しなかったモノを一度に取得してるからそうなるだけだね。『竜殺し』は朝ご飯にするその魔物が低級の竜だったからだよ」


 こんなに弱いのに竜だったらしい、初めて知った。

 マグも余裕で屠ってたし、竜って弱いんだろうか。


「ふぅん?。まあいいか。今日は畑広げるぞ。ちょうど壊れた家と焼けた家があるし」


「うん、頑張ってね」イコがいるだけで十分なのに応援までされてしまった。

 今日は休憩いらずの予感がする。


「頑張るからな、イコのために」


「ふふ、照れちゃうよ」


 朝から幸せだ。

 もう時間が止まればいいのに。


「ちょっと私を無視して桃色空間を形成するのはやめたまえよ!!」


「いたのかよ」


「いたんだね」


 軽装に身を包んだアラマキが巨大な黒い大剣を肩に乗せて立っていた。

 息が荒く、肩が上下しており、汗も流れている。


「なにそれひどい。私の獲物を横取りしておいてその反応は鬼畜でしょ。しかもクワで一撃とかふざけてるんですか。経験値の横取りは嫌われるわけで。し過ぎるとスレに晒されても知りませんよ。だから早く私に謝るべき」


「知らん。朝早くから何してるんだ。つうか剣でかすぎるだろ、おまえよりでかくね?」


「魔剣『アナキズム』……だね。意思がないから完全に攻撃力の高いただの剣だけど」


 やはり魔剣らしい。

 高尚な武器なのにアラマキが持つと冗談にしか見えないから困る。

 

「何って訓練に決まってるわけで。レベル高くても自由に動けないと意味ないのですよ。そう、アナキズムです。けど使いにくいですね。大きさは構わないんですけど手に馴染まないので別のも試してみます」

 

 自分に合った武器を探しているらしい。

 大きさよりもしっくり来るかどうかとか。


「聖剣使えよ」


「何言ってるんですか。私の聖剣は武器じゃないわけで」


 剣じゃねぇのかよ。

 なんだこいつ、ホントに勇者か。


「アルフア最弱の理由だもんね、聖剣。先代は精巧な絵柄の書かれた紙束を無限に造り出したとか。その前は太っていた勇者が突然痩せて顔が変わったらしいよ」


「色物ばっかりだな。現にアラマキ見てたら納得してしまうな」


 アルフアの勇者は他の勇者と交戦するまえに撃破されてしまうとか。

 召喚する意味あるのだろうか。


「たぶん、その紙束は私の世界のお金かな。後者はイケメンとかニコポナデポが理想だったとか。運が悪かったのにはちがいないわけで」


 アラマキが白い髪飾りを髪から外す。

 結っていた時には気付かなかったが、髪は長いようだ。


「髪にクセがあるので恥ずかしいわけで。金色のねちょねちょを洗ったら艶が凄い」


「気にしなくてもいいんじゃね。可愛いと思うけどな」


「うん、可愛いと思うよ。そっちのほうが女の子らしいし」


 髪を抑えていたアラマキが赤面して慌て出した。

 普通に恥ずかしがっている姿は年相応に見える。


「えっとえっと、ありがとゴザイマス? 気にしてるのを褒められても複雑なわけで。恥ずかしいんで話を進めます!! 異論は認めない!!」


「好きにしろよ。騒がしいやつだな」


「何なんだろうね。もう少し落ち着けばいいのに」


 まだ顔が赤いが話を進めるらしいので指摘しないことにする。

 もっと弄れそうだが許してやる。


「変な汗かいたし、顔も火照ってるし。とりあえず落ち着くのよアラマキ……。さん、に、いち。おちついたー^^ ふぅ、間違いなく落ち着いたわ」


「良かったな」


「良かったね」


 良かった良かった。

 復帰が早くて俺もうれしいよ。


「よし、話を進めますね。この髪飾り、見た目は玉簪に似てますけどアルフアの聖剣です」


「タマカンザシってのは剣の形はしてないんだな。遠くからでもそうだったが、近くで見ると綺麗なもんだな」


「英雄が使っていた物が聖剣と呼ばれるから、必ずしも剣であることは無いんだろうね。武具だって多種多様な形状をしているだろうし」


 昨夜見た雪のように真っ白な髪飾りで淡く光を放っている。

 小さな玉を細い棒が貫いたような形をしており、アラマキの黒髪によく映えるのだ。


「これは勇者が持つ聖剣の中でも特殊なんです。他のようにステを特化させるのとは違い、自分で引き寄せるわけで。説明しにくいんですけど、何とか伝えるなら理想を持ってくるって感じですね。先代はお金持ちの姿を、その前はモテる姿のように」


「超どうでもいい話だった。飯にすんぞ。朝飯は肉だ、肉」


「ボクは面白い話だと思うよ。勇者と聖剣は繋がっていて、意思を介して超常に接続するのだから、さじ加減次第で何でも出来るかもしれない。アルフアの聖剣なら安定はしないけど、強大な力を得ることも不可能じゃないよ」


 つまりアラマキは分の悪い賭けに勝ったみたいなものか。

 アルフアは試合に勝って勝負に負けたようなものだし、思い通りにはいかないんだな。


「私が何を引き寄せたかとか興味ない感じですね。なにこの敗北感、悔しい……。え、朝食がそれ? おかしくね? 竜とか朝からとかボリュームたっぷりとかそういうレベルじゃないでしょ? 朝からイベント発生とか許してくれませんか? そろそろ常識的に考えさせて欲しいわけで、常識的に考えて」


 なんか独り言が激しかったので先に家に戻ることにする。

 イコを待たせるなんてとんでもない!!

 

「パンに味付けした肉と薬草を挟めばいいよな。スープもあるし」


「今日も美味しそうだよ。さすがだね」


 素晴らしい手伝いがあったからさ、なんて言いながらにこにこしているイコを見詰める。

 なんという幸せ、時間が止まればいいのに。


「ちくしょー!! 私は勇者なんだぞー!! もっと構え!! 置いていくとか酷すぎ!! 帰り際にエンカウントして竜殺ししちゃったわけで!! あ、いい香りですねー。いただきまーす」


「……食べるか」


「ふふ、そうだね」


 イコはににこにこしながら食べているし、アラマキは喉に詰まらせている。

 いつもより賑やかな朝食だった。

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