第15話
龍の卵とか誰得。もふもふで幸せ。
目覚めた汁人。
「うわっ。まだ髪がねちょねちょしてる……。改めてありがと。私はアラマキ。普通に徹夜でネトゲしてたのに何故か勇者やってる。名前は取られたままだからアラマキと呼んで」
「アラマキ、ね。名前が取られたってのは?」
「奴隷に使われる傀儡の術式を勇者に転用してるんだよ。国は勇者を召喚した時に名前を奪って別の名前を植え付けるのさ。ねとげは知らないけど響き的に勇者の世界の何かじゃないかな」
勇者に反逆されたことがあったので首輪を付けるようになったらしい。
召喚直後に呪術で自由を奪い、『催眠』系統のスキルで名前の譲渡を許可させて、魔道具に封印する方法が取られているとか。
「アラマキはアルフアの勇者に与えられる名前なんだけど未だに慣れないのよね。あ、ネトゲっていうのは……」
「ねとげとやらの説明は要らん。しかし、勇者も不便なんだな」
「アラマキの言い分から考えるとねとげは関係なさそうだもんね。それで名前なんだけど過去に勇者が反逆したとき、真っ先に王族と貴族を殺し回ったらしいからね。操れない兵器ほど怖いモノは無いってことさ」
勇者は物好きというか御人好しかと思っていたが撤回したほうが良さそうだ。
半強制を強いられているようで、自由意思もはとんどないかもしれない。
「魔王を倒したら自分の世界に帰れるって言われて我慢してたわけ。で、魔王の居場所を教えてくれるって言われて話を聞いてたらなぜか他国を侵略する作戦になってて、断ったら王に命令されそうになったから話せなくなるように魔法をぶち込んだ」
「それは……どうなんだ? 勇者ってこんなものなのか?」
「そうだね。命令が発動する前に邪魔されると無効になるようだから命令権の分散や権力者への攻撃不可などが取り入れられるかもしれないね。でも、アルフアは他の国と情報のやり取りをしていないし、態々自国の失態を知らせることもないだろうね。だから制限されるのは次のアルフアの勇者のみってことになるかも」
イコは何を言っているんだ。
それとも俺がおかしいのだろうか。
「貴族が魔道具を持ってきてドヤ顔で「名前を返して欲しければ言うことを聞け」って言い出したから魔法でそいつごと粉砕した。カッとなってやった。反省はしていないし、後悔もしていない。出来るならもう一度したい」
「ダメだ、こいつおかしいぞ」
「名前を取られたことに屈しないその姿勢、凄くいいよ。権力を得た人間は馬鹿になるからもっと絶望を味合わせてやったほうが良かったかもしれなかったね。ボクも興味が湧いてきたよ」
おかしいのは俺なのか。
いつからおかしくなったのだろうか。
「名前を思い出せなくても元の世界に戻ってから誰かに教えてもらえるだろってアルフアから飛び出すときに置き土産で魔法を国全土に降らせて、魔力流で地上まで行こうとしたらカロンに襲われて羽根を切り取ったら落下しはじめてこれはヤバいと思って魔法でなんとか墜落死を避けようと頑張ってたら羽根にぶつかって気絶して、ここで目覚めたってわけ」
「行き当たりばったりだな 空に浮いてる国から飛び出すとかさすが勇者、普通じゃない」
「確かに普通じゃ有り得ないね。龍と単独で戦えるなんて歴代の勇者でもそう多くないよ。しかも最弱で有名なアラマキだなんて」
落ちてきた龍はカロンというらしいが名前なのか種族なのか俺にはわからん。
アラマキは勇者の中で最弱だったらしいが、龍を半殺しにするという偉業を果たしたとか……どうしてこうなった。
「私の素晴らしい才能を発揮したからに決まっているでしょ。天才は武器を選ばずなのよ」
「武器って使ったことないからわからんがなんとなく凄いってわかる」
「いや、才能があるからって理由で龍が倒せたらほとんどの勇者が龍殺しだよ」
召喚された勇者は戦いに関しては天才的らしい。
勇者には資質がある者を召喚するからとか神にギフトとは別に才能を貰うからとか諸説ある。
「冗談だけど。実際は聖剣と相性が良かったからであって才能は……。称号は持ってるからどうなんだろ……。まあ、私と聖剣マジパネぇよってこと」
「相性が良かったらマジパネぇよなのか。俺らもマジぱねぇよだな」
「そうだね。まじぱねぇよだね」
俺とイコはマジパネぇよだ。
目が合うだけで幸せ。
「なにこの空気、私だけ置いてきぼりなんだけど。聖剣の話をしただけなのに何故だし」
「聖剣とマジパネぇよしてろよ」
「天才なら考えればわかるんじゃないかな」
にこにこしているイコを見てほんわかしていると気持ちが満たされる。
ギフトで女神が憑依した場合、イコに違いないってくらい素晴らしいのだ。
「村長さんと村人さん辛辣なんだけど。勇者ってもっと尊敬されるとかないの? これじゃツラすぎるんだけど」
「他国の勇者とか排されるのが常だから。聖剣とアラマキの首があれば貴族になれるな」
「アルフアを飛び出して来たんだよね? 国の援護無しで孤立無援とかすごいよね」
とりあえず話が通じるらしいから話してるだけで、略奪とかしようものなら俺も交戦する意思があるわけで。
勇者に悪感情しか無い現状で普通に接していることに感謝して欲しい。
「チートステータス持って異世界よりも家でネトゲしてたほうが幸せだったかもしれないという現実。何故だし」
「まあ、よくわからんが頑張れ。夢は見ないほうがいいぞ」
「気にしないほうがいいよ。現実なんてそんなものだからね」
村長と村人に励まされる勇者とか。
何故だしって俺が言いたい。
「優しい言葉をかけられると切なくなるからやめて……。優しくして褒賞のために勇者狩りとかしないでしょ? 助けてくれた親切な村長さんと村人さんと殺し合いとか鬱展開は無いでしょ? 味方のいない私の拠点にする予定だから勘弁して、頼むから」
「いや、しないから。大剣を背負った勇者だったらどうにかして殺したいけどな」
「というかサラッと拠点にするって言ったね」
悲しいくらい必死なので否定してやるが拠点とか巻き込まれそうなのでどっか行ってくれないか。
大剣を背負った勇者は言わずもがな、形見を持っていった敵である。
「寂れた村だし誰も勇者がいるとは思わないでしょ。ここが私の拠点に決定しました。覆りませーん。……冗談はここまでにして、大剣の勇者ってシンカイでしょ?」
「拠点も冗談だよな?」
「シンカイは隣国の勇者の名前だよ。勘違いしてない?」
そういえばあの勇者は名前を名乗っていなかった。
村で食料や装備を集めていたのは隣国の外周からここまで侵入して消耗したからでは無かろうか。
「勘違いじゃない。大剣の勇者なら絶対にシンカイだから。βテストからやり込んで、しかもアルフアの記録まで暇潰しに暗記した私に間違いはない。あと拠点は超本気だし」
「もしあの勇者がシンカイだとしたら手を出しても構わないんだよな? 拠点とか外にしろ。外周は広いから好きな場所に行け」
「まあ、隣国の勇者だからね。褒められることはあっても罪にはならないかと。というかここは国に統治されてないから何が良くて何が悪いかわからないんだよね」
日々、神に祈ったご褒美かもしれない。
世界が俺にシンカイを殺れと囁いている気がする。
「外周って言った? 外周とか嘘でしょ、村長さん。嘘って言ってよ。なんでテストのラストイベント並みの場所に村が……村? 村の名前を教えてくれない? 私の今後に関わるからオネガイシマス」
「うるせえ、薬草でもかじってろ。なあイコ……」
「うん、アルの手紙にもあったけどシンカイは中央にいたらしいね。都合良く今もいるのならエーティルフィアに戻られる前にどうにかしないと」
シンカイが今も中央にいるとは思えないが何らかの理由で滞在しているのなら俺には絶好の機会。
この先は廻り合わせ次第である。
「村長さんが言ってた金色の薬草がどう見ても霊薬なんだけど!? あと村人さんの名前っぽいのが聞こえたけど村長さんと村人さんの名前を教えてもらいたいんだけど!? それから村の名前と、方角と、時系列から進行しているシナリオを確認して、あとは……」
「アラマキのくせにうるせえ。表出ろ」
「アラマキのくせに静かにしてよね」
興奮しているアラマキに罵声を浴びせる。
一人で喋りすぎ。
「質問すら許されないのですか……。最近の私ったら不運で不幸……」
「教えてやるからイジけんな。先にご飯だ」
「そうだね。ボクもお腹空いたよ」
アラマキの言葉を信じるのならばあの勇者はシンカイである。
あとは俺に勇者とやり合う踏ん切りがつくかってところだ。
「とはいえ自信が無いんだよな……。毒殺でも狙うべきか」
「不安なら他の手段を選んでね。無理はしないほうがいいよ」
どうしたものか。
返り討ちにされてイコに迷惑がかかることは避けたいところである。
「ふふ、ボクのことは心配しなくても大丈夫だよ。それともそんなに頼りないのかな」
「いや、そんなことはない。頼りっぱなしだ」
いつも一緒だった。
イコがいたから今の俺があるんだ。
「なら気にしないで好きなようにしたらいい。君に出来ないことなんて無い。ボクが言うんだから間違いないよ」
「そうだな。イコがそう言うのなら大丈夫だな」
にこにこと微笑んでいるイコは本当に綺麗だった。
見惚れていたが急に恥ずかしくなって窓に目を向けると、長く降り続いた雨が止んでいた。
「ご飯マダァ-?」(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
「ちょっとアラマキぶち殺してくる」
「アラマキもシンカイと同じく勇者なんだけどね……」なんかアラマキはぷちっと殺れそうな気がする。
今日は久しぶりの青空だった。
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