第14話
ここはヒノ村。
汁まみれの人が寝ていて、龍の卵がある小さな村。
そんな村で俺は数本の聖剣と魔剣を眺めている。
「聖剣ってあれだろ、勇者が持ってるやつ。魔剣は……知らん。とりあえず伝説的な剣だろ?」
「そうだね。英雄が使っていた武器を聖剣、反英雄が使っていた武器を魔剣って感じに分類するのが普通かな。この剣からは『意思』が感じられないからレプリカだとは思うけど……。でも、こんなに精巧なレプリカがあるとは思わなかったよ」
龍に刺さっていた剣の全てが聖剣・魔剣のレプリカであるというのがイコの意見である。
しかし、伝説的な剣のレプリカが何本も龍に刺さっていたなどという事があるのだろうか。
「昔の人々が龍殺しに使ったまま刺さってた、とか? あと驚いてるみたいだけどそんなに似ているのか?」
「刺さっていた傷痕が新しかったから以前から刺さっていたっていうのは無いかな。剣については意思が無い以外は本物としか思えないよ」
内包された魔力、蓄積された経験、神々しいまでの神秘、秘められた能力……。
どれもが本物と酷似していて、違うのは意思が無いという一点のみ。
「それはどうなんだ。普通によくあることなのか」
「有り得ない、としか言えないんだけどここにあるし……ホントに何なんだろうね」
レプリカと言えども本物に似ていれば、その分だけ能力を得るものらしいが最高でも一割ほどの性能を持つ剣を模造するのがやっとらしい。
聖剣・魔剣として在るために必要な『意思』が無く、それでも限りなく本物に近い偽物は有り得ないのだとイコは言う。
「有り得ないモノが有り得るってどんな状況だし」
「ボクもなんだかわからないよ。ここまで完璧だと清々しくすら感じるね」
剣を眺めているイコの横顔は形の整った眉を寄せて困った風だ。
俺は笑顔のほうが好きだが、困った顔や苦笑いのイコは何処と無く弱々しくて抱き締めたくなる。
「もしかして俺は得体の知れない何かを拾ってしまったのかもしれないな」
「そうだね。何処からどう見ても普通な要素が無いもんね」
抑えきれずに銀色の尻尾をもふもふしているのはイコが魅力的過ぎるせいだ。
何と無く気恥ずかしくなったので意識の半分以上を尻尾に向ける。
「厄介な事ばかりだ」
「それもまた廻り合わせかもしれないよ」
俺がもふもふしているのも廻り合わせかもしれない。
手のひらで撫でると抵抗なくサラサラとした心地の好い手触りを感じられ、軽く握って束にするとふわふわと柔らかくてほんのりと暖かいという至福の極みを見いだせるのでイコが癒しの頂点であるとわかる。
「素晴らしい、実に素晴らしい。これが幸せってやつか」
「……ボクは恥ずかしいんだけどね」
少し赤くなってもじもじとしつつも尻尾は俺から離れることは無い。
まさにご褒美であり、恥ずかしくて俺も顔が赤くなろうともふもふを続ける。
「……俺も恥ずかしいけどな」
「ふふ、君は難しいやつだね」
むしろこの程度の恥ずかしさで離れるなんて勿体無い。
どんなに恥ずかしくてもイコの尻尾には正直で在りたいのだ。
「ほわぁ……ん?」
「起きたな」
「起きたね」
寝ていた汁まみれの人物が目覚めたようである。まだ寝惚けているのか開ききっていない瞳で周りを見渡している。
「……おはよう」
「ああ、おはよう。挨拶されたんだが?」
「おはよう。うん、好戦的では無さそうだね」
完全に目覚める前に村の外に捨てようかと思ったが、やめておいた。
レベルは未知数だが龍のように半殺しにされるかもしれないからだ。
「……あなた方はどちらさん?」
「俺は村長だ。空から我が家に墜落してきたアンタを治療した」
「ボクは村人。これは龍から抜いてきたけど君の剣?」
金色の汁で全身ネトネトにしたのは治療のためであって、面倒だから塗りたくったとか無いから。
イコがにこにこしながら剣を差し出し、持ち主かどうか聞いている。
「あ、それ私の。ありがと……。なんか全身ぬちゃぬちゃなんだけど」
「全身に傷を負ってたから薬草の汁をたっぷり塗ったせいだ。彼女に拭いてもらうといい」
「任せてよ。ああ、服は洗濯するんだけど洗っても大丈夫だよね?」
危険な人物では無さそうなので、代わりの服を机に置いてイコにこの場を任せて部屋を出る。
やはり持ち主らしいので、後程イコと相談することになるだろう。
「なんか似てるんだよな……」
何もかも違うのに彼女はどこか似ているのだ。
村を訪れたあの勇者に。
「わからんな」
勇者とはそういうモノなのだろうか。
他の勇者を見ればどこが似ているのか気付けるのかもしれない。
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