第12話

 地に臥す龍。

 滴る水滴。

 プウカさん無双。


「妖精だと侮ったらいけないな。予想を超越しててビビった」


「雨が降ってるからステータスに補正が付いてギフトで雷を落とし続けるとか昔憑いた雷帝みたいだったね」


 ギフト『上縫』を発動し『雨妖精・プウカ』の憑依に成功した場合、プレイヤーはプウカとして判定され、ステータス・設定の一部【ギフト『雷迎』・物理耐性50%・魔法耐性50%・降雨時全ステータス150%上昇・スキル『避雷針』】を恩恵として貸し与えられる。

 戦闘の終了とともにプレイヤーから恩恵が回収される。


「次からはプウカさんと呼ぶことにしよう。仲良くなればまた来てくれるかもしれない」


「そういうのは関係ないよ。フィールドに発生している現象に関係している仕様が憑くって条件だし」


 俺の思ってたことと違うらしい。

 なぜ本人よりもギフトのことに詳しいのだろうか。


「条件とかあったのか。楽しかったから雨が降ってたらまた来るってプウカさんも言ってたんだがな」


「妖精に意識があるなんて初めて知ったよ。いや、神にも意識があるって知ったのは君が言ってたからだけど」


 仕様に明確な意識があるということは知られていないらしく、俺にもよくわからない。

 仕様と意思疎通が取れるのは俺くらいなのでイコにもわからないことが多く、実際は異なる情報もあるそうだ。


「妖精が憑いたのは数えるほどしかなかったが、無口というか意識が希薄だったから話せたのは今日が初めてだな」


「仕様の重要度で意識が変わるのかな。そこのところはわからないけど、雨が降ったらまたプウカが来るかもね」


 やはりわからないことも多いようだ。

 とりあえず称号に依存してギフト発動はやめてほしい。

 

「『龍殺し』を得たんだけど」


「称号はソロかパーティで得られるモノだからね。今までは村人だったから何をしようとも得られなかっただけだよ」


 ジョブが村人だと功績が村全体として取られるので称号を得ることは無かったが、村長として倒したので個人として認識されて取得できたらしい。

 村人の扱いに泣いた。


「マジか。村長すげえな」


「村長が凄いというか、なんというか」


 村長の偉大さに敬意を払いながら称号を『ヒノの後継者』から『龍殺し』に変えてみる。

 恩恵の程は……。


「イコ!! 凄いぞ、この称号!! 『ヒノの後継者』とあまり変わらないが効果範囲が俺自身になってるから森から出てもギフトを使えるに違いない!!」


「それは良かったね。というか『龍殺し』と補正があまり変わらないってホント?」


 何を疑っているのか知らないが本当なのだ。

 『ヒノの後継者』は陣地として登録されている村や周辺の森でしか補正が発揮しないが『龍殺し』は俺自身に常時発揮するという素敵な称号である。


「本当だ それにしてもこんなことなら称号を探しておけば良かった」


「『ヒノの後継者』を詳しく調べたほうがいいかも……。ああ、称号は常時発動型なんて珍しいから君が探したとしても見つかったのは条件発動型ばかりだったと思うよ」


 称号を取得するのが難しいうえに発動条件もあるらしい。

 例えば皿洗い系統の称号があったとしたら俺は皿洗いし続けないとギフトの効力が発揮しない条件発動型ばかりだとか。


「それだと『龍殺し』は龍を相手にしないとダメなんじゃねえの」


「龍の経験値は魂のレベルを上げるから常時発動型の称号を得られる……らしい。そこら辺はボクにもわからないね。まあ、強大な敵を倒したご褒美みたいなモノじゃないかな」


 村長がクワを片手に精霊を憑依させて龍を殺す。

 傍から見たら奇跡というか喜劇ではあったが大したことは無かった気がしないでもないがどうなのだろうか。


「村人ではなかったとして、俺が取得できそうな称号とかあったんだろうか」


「『常在戦場』しか思い浮かばないね。他にもあると思うけど最近は聞いてないから忘れちゃった」


 称号『常在戦場』はひと月の間に敵の撃破数が一定数を超えると取得できるらしい。

 そんなことは無理であり、だからこそ『龍殺し』は嬉しい偶然だった。


「偶然でもありがたいことだけどな」


「廻り合わせかもしれないよ」


 世界の仕様は必要なときに必然的に廻るそうだ。

 運命の歯車が噛み合うために。

 

「それは仕組まれてるってことなのか」


「いいや、引き寄せているのさ」


 夢を現実にするために。

 足りないモノを補うように。


「俺が龍を倒したことも引き寄せられた結果ってことか 運命ってやつ」


「どうだろう。一つだけわかるとすれば、嫌な運命だね」


 そう呟いたイコはいつも通りにこにこしながら、俺の隣で空から雨とともに人が降ってきているのを眺めていた。

 ああ、あの人の落下地点は俺の家じゃないか。


「運命を変えたくなった」


「不確定だから運命なのさ」


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