第10話
ここはヒノ村。
祖父が拓き、父と母が整え、俺が治める小さな村。
そんな村で俺たちは今日も暮らしている。
「マグから手紙がきた」
雨を眺めているイコに声をかける。
彼女は雨が好きなのだ。
「未だに届けるってすごいよね」
アルという阿婆擦れと一緒に届けているから大丈夫とかなんとか。
それでも手紙を届けるだけに竜籠ってバカだろう。
「依頼で強い魔物を倒したらしい」
「探索者がクエスト解決とは珍しいね。迷宮を探索するのが目的なのに」
迷宮で知り合った女の子に頼まれた依頼でわざわざ中央から出て解決したらしい。
女絡みの話ばかりだが女運が悪いのだろうか、それとも良いのだろうか。
「討伐したのは湖に住む『スキュレイ』って魔物らしい。外での戦闘は迷宮と違って大変だったとか」
「スキュレイを討伐とは驚いた。マグたちは気付いてないのかもしれないけどスキュレイは下級の竜だよ。迷宮に入って数か月の人間が勝つには厳しいレベルだと思ったけれど」
スキュレイは水辺を好んで生活し、竜種としては戦闘力が低いが魔物の中ではかなり強い。
水属性の魔法を操るので水の存在するフィールドだと強さに補正がかかるのだとか。
「凄いことなのか」
「下級に分類されていても竜は竜だからね」
竜は魔物が進化した姿だと言っていたし、魔魚とか半魚人から進化したのかもしれない。
魔魚からの進化だとしたら陸上に揚げられてぴちぴちしている竜というカッコ悪い姿を想像してしまった。
「竜にもさまざまな種類がいるんだな。人種みたいなモノか」
「種類がたくさんいるのは元の魔物が違うから。成長を続ければ最終的には全てが亜龍になるから人種とはちょっと異なるかもね」
竜も頑張れば亜龍という龍になるってことらしい。
龍という存在はそれだけ隔絶した力を持っているってことなのだろうか。
「つまり竜は料理的なモノか。最初は別々の材料だが最終的には一つの料理になる、みたいな」
「ふふ、そんな感じかもしれないね。ヒトも英雄になれるから大きく見れば竜と同じかもしれないね」
人間と亜人を一括りにしてヒトと表現するらしいが分類の方法は聞かなかった。
ヒトでは成し得ないであろう奇跡を起こした唯一に送られる称号が英雄だとイコは説明してくれた。
「称号とかじいさんが死んだときに得た『ヒノの後継者』しか持ってないな」
「十分だと思うけどね。他に欲しいなら手伝うけど?」
欲しくないので手伝わなくていいです。
称号の取得条件は多岐に渡るが、根本は仕様をこなせばいいらしい。
「興味ないな」
「言うと思ったよ。ああ、でもスキュレイを倒したなら呪いが大変だね」
確かに手紙には呪いをかけられたと書かれているが今のところマグやパーティに被害は無いらしい。
警戒していても仕方ないので近いうちに迷宮の探索に戻ることも書かれている。
「影響はないらしいぞ。呪いも失敗したんじゃないのか?」
「いいや、成功しているね。雨が降り続いているのが証拠だよ」
スキュレイの呪いは雨が降り続くことである。
自らを殺した者の魔力を追って、大雨ですべてを憎悪の続く限り洗い流す。
「なるほど。この大雨はマグのせいか」
「マグの家があるここは魔力が残っているから雨が降っているんだろうね。隣村にも何か彼が身に着けていたモノがあるんじゃないかな」
この分だとマグが訪れた場所のほとんどは大雨に違いない。
中央は国の中心だから大雨でも気にするほどの被害は受けないのだろう。
「どのくらい降り続くんだ?」
「わからないけどまだまだ続くと思うよ。竜の呪いだし、ひと月じゃ効かないかもね」
このままでは村が水没するか、薬草が腐るかしてしまう。
引っ越して空き家状態なのでなくなっても構わないだろう。
「隣の家を燃やすか。そしたら魔力云々じゃなくなるだろ」
「いい案だと思うよ。ボクが魔力を分解してもいいけど家一軒分を隅々まで触るのは大変だから」
燃やし尽くすことが決定した。
普通に燃やすよりイコの炎のほうが灰などにも魔力で上書きできるから効果的だとか。
「見事に消し炭になったな。ここに家があったなんて誰も気づかない」
「スキュレイの呪いはおそろしいね」
これが呪いの目的だとしたら確かにおそろしい。
灰が積もっているマグの家の跡地でスキュレイを相手にする恐ろしさを学んだ。
「そういえばマグの手紙も魔力が篭ってるよな」
「その程度ならボクが分解しておくよ」
簡単な物はイコがギフトで魔力を分解してくれました。
可愛い家族は俺が出来ないことを平然とやってのけるのだ。
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