第5話
降りしきる雨。
恵みの雨ってやつである。
「久しぶりの雨だな」
「いくらか涼しくなってくれてボクも嬉しいよ」
窓から外を眺めているイコは機嫌がいい。
暑いのが苦手な彼女は家でのんびりしているのが好きなのだ。
「そうか。まあ、薬草も枯れなかったし俺としても嬉しい限りだ」
「薬草が枯れると雑草にすら劣るからね」
今はすぐに傷が治るポーションがあるから薬草もそこまで重要ではないのだ。
そのうち薬草が市場から消えるかもしれないので雑草と覇権を争うことに……ならないな。
「中央への移住を決めた人が増えてきたようだ」
「ここも年々住みにくくなってきたからね」
魔物の生息域をくり抜いたように作った村である。
外部から人が訪れることはほとんどなく、来るのは傷だらけの旅人や冒険者を雇った行商人などの奇特な人たちだけだ。
「あの商人もこんな薬草を買いにこんな辺鄙な場所に来るとか凄いよな」
「国もわざわざ税として取りに来るんだもんね」
不思議な人々だ。
泡銭にしかならない薬草を買うためにここまで来るのだから。
「味が好きとか?」
「ただの雑草と変わらないでしょ」
雑草と同じだと言われるのは悲しいが否定はできない。
磨り潰した薬草の汁をアンデッドモンスターにかけると即死するから聖水いらずではあるのだが。
「でも戦ってる最中に薬草ってどうよ」
「薬草をもしゃもしゃしながら戦う歴戦の勇者とかカッコがつかないね」
右手に聖剣、左手に薬草で魔王と熱く戦うとか子供の夢が壊れる。
ポーションはかけるだけって聞くから偉大だよな。
「いや、もしかしたら磨り潰した薬草の汁をかけるとか」
「特にアンデッドに効くけど魔物にも効くから魔王にも効くかもね」
互いに薬草の汁塗れで戦う最終決戦。
カッコ悪いし、薬草の青臭さが涙を誘う。
「ポーションはすげえな。見た目もカッコいいし」
「戦いのための薬って感じがするもんね。『薬草』だと田舎っぽいけど、『ポーション』だと都会っぽい」
傷に薬草使うよりもポーション使った方がオシャレだよな。様式美的な意味もあるのかもしれない。
「まあ、俺みたいな村人は薬草で我慢するしかないけどな」
「薬草の汁ってカッコ悪いよね」
イコの呟きを無視して薬草を煮詰める。
見た目は金色の汁なので悪くないと思うのだが。
「雨の時の内職だ。仕方ないだろう」
「いいけどね。ちなみに普通の薬草って緑色なの知ってた?」
……え?
金色じゃないのか?
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