第6話

 止まない雨。

 湿気がべたべたでイコの毛がもさもさである。

 毛繕いが大変だ。


「マグから手紙が届いた」


「また?」


 定期的に届くこの手紙。

 イコはうんざりしている様子だ。


「返事もしていないのにな」


「友情ってやつかもね」


 ホントのところはどうなのだろうか。

 俺にはわからない。


「内容は『パーティが女性ばかり。探索は順調』だとよ。ハーレムを知らせられても困るんだがな」


「そっちの様子はどうだ?みたいなことが書いてあったのに完全に今は無くなったね」


 自分の近況を書いてるだけになった手紙を見ながらマグを思い出す。

 ……どんな顔をしてただろうか。


「マグってどんなやつだっけ」


「忘れたとか?」


 ジト目で見られても覚えていないのだから仕方ない。

 というかそんなに仲が良かっただろうか。


「正直、あんまり覚えてない」


「ボクもおぼえてないけどね」


 イコも覚えていないらしい。

 常に俺と一緒に行動しているイコが覚えていないのだからそんなに仲がいいってわけでもないのだろうか。


「でも手紙が来るしなあ」


「マグの友達が少ないとか」


 友達がいないから面識がある俺が繰り上げで親友ポジションになったとか。

 なんかしっくりきた。


「ああ、可哀相なやつなんだな」


「順調に迷宮を進んでいる相手に言う言葉とは思えないね」


 確かにな。

 俺なんてただの村人だし。


「心なしか良質の紙を使っているし」


「ホントに順調なんだろうね」


 そういうところは羨ましい。

 あとギフトが加速とかも羨ましい。


「そしてまた紙が届けられたわけです」


「無料で上質紙を送ってくれるなんていい人もいるよね」


 欠点は紙の片側に黒い染みがあることだろうか。

 適当にしみ抜きして乾かせば使えるようになるはずだしこれくらいは我慢しよう。


「ホントにな。まあ、今は紙の使い道がないがそのうち使うようになるだろうし」


「どうせならインクも送ってくれればいいのにね」


 全くだ。

 まあ、無料なので文句を言うのはお門違いだろう。


「隣村の川が氾濫するかもしれないとか」


「川の近くなんだし、当たり前といえば当たり前だね」


 隣村、と表現しているがこの村よりもかなり遠い。

 魔物の生息域のど真ん中にあるこの村と違ってぎりぎり人間の生活圏にあるからだ。


「まあ、凄い雨だからな」


「そうだね。そろそろ川ができるかもね」


 大雨の後は空に川が出来るのだ。

 雲と同じ高さに現れる川なので泳ぐことはできない。


「いつも思うんだがあの川ってどこへ流れてるんだ?」


「あれは七国の中心まで流れてるんだよ。他の国からも同じように流れてるけどここからじゃわからないね。川にはアルフアが漂っているから泳げばすぐに見つけられるかも」


 この村があるのは外周と呼ばれる魔物の生息域である。

 外周のさらに外側から魔力が吹き出し、魔力流として空を流れ、一か所に降り注いでいるのだとか。


「アルフア?」


「空を漂っている国さ」


 七国は勇者を召喚できる主な国を指していて、歪な円を描くように連なっていたが今は違うらしい。

 アルフアというのは七国の中心にあった国で今は飛び立ってしまったので七国は円環の状態になり、その中央へ魔力が流れていて雨が降ると川ができるのだとか。


「壮大な話だな」


「ボクたちには関係ないことさ」


 確かに村人には関係のないことである。

 ちなみにアルフアが空にあるので地上には勇者が召喚できる国が六つしかないとか。


「俺らに関係あるのは夕飯をどうしようかってことだ」


「今日はシチューが食べたいね」


 イコは色々なことを知っている。見た目も昔から変わらない見惚れるような可愛い少女の姿のまま。


「今日はそうするか」


「ホント? 嬉しいな」


 そんなイコは食べることが大好きだ。

 そして俺はそんなイコが大好きなのだ。

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